その76 mc vol.31 3rd Anniversary 

 第31回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

今回は 3rd Anniversary なんと3周年なんだそうです♪
おめでとうございます。

でもって この回には とてもとてもとても 嬉しいプレゼントがありました♪
タイトルを作ってくれたんです♪ ワーイワーイ★

なんといっても 記念イベントですからね。
3歳の誕生日は特別です。
七五三も まずは三歳から・・(ちょっと 違う・・(--;)

なので私も ネタにしようと思ったの全部いれちゃいました。
次はもう・・な・・い・・??・・ (^^;



◎「林の向こうに春があるんだそうです。どういう意味ですか」
 で はじまり・・


◎物語が進行中である、というこの瞬間が楽しい。
 で おわる・・

でもって・・今回の特別ルール。
途中どこでもいいから どんな使い方でもいいから 
ミステリー・サークル と入れる。

 Anatano


rudo 著

「林の向こうに春があるっていうんです。
 どういう意味なんでしょうか・・
 意味なんてないんでしょうか・・」

「モルヒネのせいで
 幻覚でも見てるんでしょうかねぇ」

病院の屋上で疲れきって
黒ずんでしなびた女が言う。

この黒ずんでしなびた女の夫は
すい臓がんの末期で
明日死んでもおかしくないと言われながら
もう二ヶ月も生きているらしい。

最初は泣いていたこの女も
看病に疲れたんだろう
いまや・・「早く死んでくれ・・もう死んでくれ・・」

全身で叫んでいるのが見える。

最近は少し動いても痛がって
気がつくと鼻から口から血が出てるんです。

本当にいくらでも出てくるんです。
ふいても ふいても・・
タオルなんてあっというまに血びたしになってしまって・・

枕カバーもシーツも・・
変えても変えても間に合わなくて・・

洗っても落ちなくて・・
茶色いしみになって残っているんです。

・・・テレビでもよく 癌で死ぬ場面とかありますけど・・
あれって 嘘ですよね。
あんなにきれいなわけないじゃないですか・・


癌はくさいって いうけど本当らしい。

血生臭さと
薬品と
消毒液と

そして どうにもできず腐っていく細胞の発する匂いだ。

「ちょっとかいでみたいな・・」

女は嫌悪感を丸出しにして私を睨む。
でもすぐに力なく肩を落として・・

「本当に見舞う気があるなら早いほうがいい・・
 もう今 戻って死んでいたっておかしくないんだから」
と涙声で言う。


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今日もね・・がまんしたよ。

もうね 7年たつよ。
それでも いますぐにだってやりたい気持ちはある。

そういって 少しくたびれたような男が笑う。
笑ったのかな・・
ちょっと口を歪めただけにしかみえない。

どこがどう・・ってわけではないけど

何か違う。
どこか違う。

それは・・たぶん一生消えないんだろう。

男は覚せい剤に手を出した。

一度やったらおしまいだ。
わかっていた。

なのにどうして手を出したのか・・

男は7年前まで大きな会社の重役で
奥さんも子供もいて・・
りっぱな家も車も持っていた。

一度くらいなら・・
そんなのが通用していたのはもう昔の話。

いまは・・今は一度で人生は終わるのだそうだ。
一度で骨の髄までしみこみ
けして消えることはないのだそうだ。


幻覚もあるし幻聴もある。

そういう悪い部分はそのままに
禁断症状がないため周りが気づきにくい。

そしてあいかわらず高い。

家も・・家族も 友達も もちろん親も
何もいらない 

たった一袋のために
家さえも差し出す。

自分でも驚くほどの言い訳が
湯水のように湧いてきて
金の無心をする。

やらないでいることが
肉体的に苦しいわけではないのに
買わずにはいられない。

そして どうにも金が手に入らなくなったとき
なにもかも失くした事に気づく。

禁断症状が出ないということはね。 こわいよ。
昔のように隔離するのが無意味になるんだ。
だって・・やらなくても ちっとも苦しくならないんだから。

男が言う。
強く強く やめたいと思う人はね だめなんだ・・
そういう気持ちがやりたくてたまらない気持ちに火をつけるんだ・・

今はやめよう・・って思うといいんだよ。
とにかく目の前の仕事をして
それからやるかどうか考えよう。

仕事の後・・もう一度 今はやめようって思うんだ。
夕飯を食べてからにしようって思うんだ。

そして少しづつ伸ばしていく。
今日はやめよう。
今日 一日だけ我慢しよう・・

そして明日になったら
また 今日はやめよう、今日一日だけ・・そう思うんだ。

そうして 一日一日をやり過ごしながら・・
7年たったよ。

でも 今すぐにだって 始められる。
ほんの軽いブレーキをかけているだけなんだ。
 「今はこの時だけやめよう」って・・・

「じゃあ 明日はやってるかもしれないんだね」

男はピクリと眉をあげ私を睨んだが
すぐに気弱に下を向き・・

「そういうことだ・・」
と独り言のように言う。

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上履きをはこうとしたらね
泥がつまってた。

中庭の池の底の泥だよ。
汚いよね。
だってあひるとか飼ってるんだ。
あひるのうんちとか おしっこも
混じってるよね。

でもさ 入れた奴らは その泥をとるのに
池の中に手を入れるかなんかしたんだよなって
そう思ったらなんかおかしくなっちゃってさ・・

ふでばこをあけたら鉛筆が全部折れてたなんて
毎日のことだから もう気にならないよ。
鉛筆削りもって歩いてるんだ。

一番辛いのはなにかって?

なにかなぁ・・
別にどれもなんとも思わないなぁ・・
慣れちゃったからなぁ。

あぁ・・そうだ。
妹がいるんだけどね。
今度 一年生になるんだ。
来年の春にね。

同じ学校にくるから・・
妹にみられるのは辛いかなぁ・・
Setucut_18
 

「死にたくなる?」

ぶしつけな冷たい質問に少年は
驚いたように目を丸くして・・
でもすぐに またどんよりとした光のない目でいう・・

「ならない。
 ならないけど
 もし事故とかで死んでも
 別にいいよ」
と言った。
その唇は 荒れてガサガサで血が滲んでいた。


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その夜。 そられのメモをみながら
「どれにしようかなぁ・・」と考える。

明日はミステリー・サークルの発表会だ。
ミステリー・サークルというのは
別にミステリーでもなんでもなくて

月に一回 なにか面白い話や不思議な話や
なんでもいいから一人ひとつ話をするということをしている。
もちろん何もないときは何もありませんでいいんだけど・・

前回で面白かったのは守屋さんという女性会員の話で
秘密の飲み屋に行ってきたという話しだった。
そこは夫婦交換をする人のための場所で
会員制で紹介制で・・
でも別に夫婦じゃなくてもとにかくカップルならいいんだそうだ。

赤坂の駅をおりて・・
酔っていたから場所はさだかではないが
こんなところにと思うような住宅街で
普通の一軒やで・・
でもカウンターもあるし テーブル席もあるし
カラオケもあるし・・
ちょっと家庭的なスナックみたいなところだったのだそうだ。

そこのオーナーはもちろん夫婦で
もちろんそういう趣味で
奥さんはすごくボーイッシュで
聞いたら男も女もいけるらしく
もしご要望があればお相手しますよと言ったという。

二階にあがる細い階段があって
その上はどれくらいの広さなのか・・
とにかく ダブルベッドがずらっと並んでいて
一台一台の間はレースのカーテンだけなのだそうだ・・

なにもしないでただ飲んで帰るカップルもいるし
ベッドの部屋に上がるのも自由だ。

ただし階段を上がるのに条件が二つある。
カップルで行くこと。
二階にあがったらまずシャワーを浴びて
バスタオル以外持ち込み禁止のこと。

守屋さんが誰とどうしてそこに行き
何をして 何を見てきたかは話してくれなかった。
「まあ・・社会見学みたいなものかな」
そういって 照れ笑いをしながら話を〆た。

そんなわけで私はミステリー・サークルに入ってから
毎日 ネタ探しをしている。

みんな単発が多いけど
私はだいたいシリーズものを探すことにしている。

今はだから 膵臓癌の人の話と
薬物中毒に苦しむ人の話と
いじめにあっている小学校4年生の男の子の話だ。

だいたい順番にしているが
今回はやっぱり膵臓癌だな・・
もうそろそろクライマックスだし・・

「よしっ決めた。 明日は膵臓癌だ」

・・・でも みんな私が話すとき いやな顔をしている気がする。
やっぱり人の不幸をネタにするのはよくないかなぁ・・

でも たいていの人はいい話や笑える話が多いんだし・・
一人くらい嫌われ者がいたっていいよね・・

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発表会の開催される日。
行く前に買い物をしてから行こうと
夕方早めにアパートを出ると
下で なにやら揉め事のようだ・・

この近辺に最近出没するようになった豆腐屋のおにいさんと
アパートの前の一軒家で一人暮らしをしているおばあさんだった。

このおばあさんはちょっとボケていて
とにかく被害妄想が激しく
ちょっとした会話があとでとんでもない話にされていたりするので
誰も口を利かないものだから
このところ この豆腐屋がお気に入りだ。
何も知らない豆腐屋のおにいさんは
豆腐ください・・と呼び止められれば 足を止めるし
話かけられれば 客商売だから世間話にもつきあう。

いつもおばあさんが色気たっぷりに
一方的に親しげに話しをしていたが
今日はなにやら言い争っているので 
ちょっとアパートの影にかくれて盗み聞きをした。

おばあさんが甘ったれたような声で言う・・
「豆腐を食べたらねぇ 血糖値があがっちゃったのよお」

律儀で親切な若者の豆腐屋が言う・・
「豆腐を食べたらですか!?」

「そうなのよお・・どうしたもんかしらねぇ」

「それはよくありませんねぇ・・」

「ねっ どうしたらいいかしら?」

「豆腐で血糖値があがるなんて話は聞いたことないですけど・・」

「うそだって言うの? 本当よ。
 この豆腐であがったのよ」

「じゃあ・・もうやめたほうがいいんじゃないですか?」

「買わないって言ってるんじゃないのよ だから血糖値がね」

「はい あがったんですよね 豆腐で・・だったらやめた方が・・
 血糖値あがるのよくないですよね」

「違うって言ってるでしょっ 豆腐のせいじゃないのよっ」

「えっ? だって今 豆腐を食べたらって 言いましたよね?」

「そうじゃないのよっ 血糖値が高いって話なのよ」

豆腐屋のおにいさんは唖然としている・・


私はこの先の展開がなんとなく想像できたので
もう行くことにした。

心配して欲しいんだろうな・・きっと。
でも豆腐のせいにしちゃったから話がしっちゃかめっちゃかだ・・

でも豆腐屋のおにいさんはたかだか豆腐一丁に
毎度毎度30分近くも呼び止められてんじゃ面倒だもんねぇ・・

そうだ・・今度はこの豆腐屋シリーズもネタにしよう。
これはちょっとユーモアがあっていいんじゃないかな・・

私はなんだかうれしくなって 駅までスキップして行った。


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あちこちで 

あの人の・・
その人の・・

ひとりひとりの物語は進行中だ。

私は・・この断片が見えるその瞬間が楽しい。
ぞくぞくする。

そういう私の物語も進行中で
そういう私の物語の断片も
もしかすると・・・

 どこかの
誰かの
快感を刺激しているかもしれない・・

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その75 mc vol.30 「想い・・遥か」

 第30回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。


◎「それきりだった」 で始まり・・


◎瞳の奥に、あんなに赤い血の色が見えるなんて
 で おわる・・


「想い・・遥か」 rudo著


赤色灯の赤
下半身の赤
 
青ざめていく菜織

「子どもさんはなんとか・・
 母体は・・ 出血が急で・・ 残念ですが・・ 」

それきりだった。

うそだっ うそだっ
うそだうそだっ

嘘だっ 菜織っ 菜織・・おいていくな・・・

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大切なものをなくした悲しみで手一杯なのに
僕に泣いている暇はなかった。

菜織が命とひきかえに残していった僕たちの子どもは
「先天性白皮症」という疾患を抱えていた。
髪も肌も目もなにもかもが白い あるいは透明の。
色素を持たない アルビノというのだそうだ。

これは疾患なんだろうか? 
珍しいはずなのに医者の説明は簡単だった。

「直射日光に気をつけてください・・」

菜織の両親が子どもを引き取ろうと申し出た。
あなたはまだ若い。
これからいくらでもやり直すことができる。
けれども子どもを抱えていてはそれだけでも不利なのに
手のかかるだろう子どもがいては・・

やり直すってなんですかっ
僕は菜織いがいと結婚なんてしません。


僕の両親もそれに賛成した。
そのほうがあなたのためよ。
それでもあなたの子どもには違いない
私たちの孫には違いない。
出来る援助はするから 預けるのだと思って
あちらのご両親に甘えたほうがいい・・

ほっといてくれっ
僕と菜織の子どもは僕が育てるんだ。

怒りに任せて家族の手を振り払った・・


子どもが病院にいる間に先のことを決めなければならない。

僕は毎日新生児室を覗きに行き
まっしろな天使のような子どもをガラス越しに見る。

きれいな子だと思う。

「きれいね」

いつの間にきたのかうしろにちょうど菜織と同じくらいの女性が立っていた。
ここの入院患者なのだろう花柄のパジャマを着ていた。

「育てるの大変ね」

なんだかひどく無責任な言い方に聞こえたのでむっとした。

「アルビノだからですか」

彼女は驚いたよう僕を見る。

「違うわ。 だっておかあさん亡くなってしまったんでしょう?」
最後の方は言いにくそうに声が小さくなる。

僕は気づく・・ここの入院患者なら知っていてもおかしくない。

子どもを残して死んでしまった母親のこと
その子どもが一目で普通と違うとわかること・・

「あ・・あぁすみません。 大きな声を出してしまって
 ・・そうですね 大変ですよね。 普通の子じゃないし」

申し訳なさも手伝って少し自嘲気味に言う。

「普通の子どもよ」

「えっ?」

「普通の子どもよ」 彼女はもう一度 ゆっくりと繰り返した。

なんだか新鮮な言葉だった。

ぼんやりしているうちに彼女はいつの間にかいなくなっていた。


次に彼女にあったのは翌日、屋上でだった。
毎日家に戻ると菜織の両親と僕の両親からの留守電が待っていて
同じことを何度も繰り返していた・・
「どうするつもりなの」
「強がっても一人では困るでしょう?」
「仕事はどうするの? ずっと休むわけにいかないでしょう?」

わかっている。
わかっているけれど 自分の子どものことだ
菜織の忘れ形見だ。
じゃあお願いしますですむ話じゃない。

それでも確かに仕事に行っているあいだ子どもはどうするのか? 
保育園に入れるにしても こういう子どもは受け入れてもらえるのか?
たぶんしなければならないことはたくさんあるのだろうに
何もする気になれず 日の暮れいく屋上でタバコを吸っていた。

「こんにちは・・もうこんばんは かな?」

「ああ 昨日はどうも・・」

「・・元気がないみたいですね」

「いや・・まあ・・そうですね。 
 やらなくちゃいけないこととか、調べなくちゃいけないこととか
 いろいろあるんだろうけど・・
 どこから手をつけていいのか途方にくれちゃいましてね」

「赤ちゃん・・抱いてあげてます?」

「えっ? あぁ いや あんまり・・」 彼女はいつも思いがけないことを言う・・

「まず抱いてあげないと・・見てるだけじゃなくて
 そして名前を呼んであげないと・・名前なんていうのかしら?」

「なまえ・・・?!」

そうだ名前。 
名前はたしか生後一週間くらいのあいだに届出を出すんじゃなかったか?
なにやってるんだ・・僕はすっかり忘れていた。
 
「まだ考え中?」


---名前はねぇ私の菜をとって 直弘さんの なおをとって「ななお」
 漢数字のなな 生まれるのお。
  「七生」 男の子でも女の子でもいいでしょう? どお?

「七生・・」

「ななお? 素敵ね」

「菜織が・・女房が考えたんです・・」

「じゃあ早く届けて呼んであげなきゃね」

彼女と話をしているとピリピリといらだった神経が柔らかく滑らかになる気がした。
もっと何か言って欲しかった。
一人でどうしていいかわからないことを こうしなさい ああしなさいじゃなく
問い詰められて追い詰められてじゃない。 聞いて欲しかった。
聞かれて考えて そうしたら僕は答えを出すことができる・・
思い出すことができる・・今、名前のことを思い出したように・・そう思った。

「じゃあ またね」

「まって・・まってくださいっ」

小首をかしげた彼女はなんだか菜織に似ていた。
菜織の 「なあに?」 と無言で問いかける時の顔・・

「もし あの迷惑でなければ話を聞いてもらえませんか・・
 できれば相談にのって欲しいというか・・その うまく言えないんですが」

彼女はそう言い出すとわかっていたとでもいうように
優しくほほえんで・・でも少し困った顔をした。

「いいですよ。 いいんですけど 明日でいいかしら・・
 明日のお昼が終わったくらいに・・もう薬の時間なんです」

「あ・・あぁ はい。 もちろんです。明日の昼ここにいますから
 すみません。 ありがとうございます」

「じゃあ 明日」

僕は深々と頭を下げて彼女を見送った・・

彼女は入院患者だった・・
自分のことばかりで彼女のことをちっとも考えてなかった。
・・彼女はなんで入院しているんだろう?


約束の翌日、紙パックのコーヒー牛乳とオレンジジュースをもって
僕は屋上へ向かった。
少し早めにきたはずなのに彼女はもう すみっこのベンチにすわっていた。

「すみません。 待たせてしまいましたか?」

「いい天気だから 早く来たの。 まだ約束の時間じゃないわ」

僕は恐縮しながら彼女の隣に座りもってきた紙パックを両方示した。
「よかったら・・こんなものしかなくて・・」

「ありがとう」そういって 彼女はオレンジジュースを取った。
 
菜織もきっとオレンジを選ぶだろうな・・ふと思い出す。
彼女は菜織とちっとも似ていないのになぜか菜織を思い起こさせる。
雰囲気が似ているのかな・・

それから少し世間話や天気の話をしたあと
僕は彼女に愚痴めいたことをえんえんと語った。

菜織の両親が引き取ると言っていること
僕の両親がそうしたほうがいいと言っていること
自分で育てるんだと宣言しても具体的にどうしていいのかわからないこと
名前をつけることさえ忘れていた自分の情けなさのこと

けんかに負けて悔しさをわかってもらおうと母親に訴えるこどものように
話は前後し、支離滅裂な言葉はなだれこむように彼女にむかった。

「そんなに気負わなくても普通にすればいいじゃない?
 こういうときするだろう ごく普通のことよ」

「・・普通?」 普通って何だ?
母親が死んで子どもにはよくわからない疾患があって普通ってなんだ?

「あなたのしたいことを言って、して欲しいことをお願いすればいいのよ」

「引き取ってもらえってことか・・」

「違うわ・・
 自分で育てたいのだとちゃんと伝えて
その上で足りないところを助けてくださいって
 そういえばいいのよ」

「・・・・」

「まず、そこからよ。 自分だけでって囲い込まないで
 必要な手は貸してくださいって・・
 きっとみんなあなたから取り上げようと思ってるわけじゃないと思う。
 あなたが素直に聞いてないだけなんじゃないかな」

「ねっ」 そういって彼女は僕の手に小さな折り紙のようなものを載せた。
ストローの袋を折ったものだ。

「寒くなってきたから・・もう行くわ」

手のひらに載せられた小さな短冊のようなそれには見覚えがあった。
ストローの袋をみつけると菜織もよく作っていた・・


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僕はそれから自分がどうしたいのか整理し
できることと出来ないことを考えて
まず菜織の両親に会いに行った。

「自分の手元で出来る限り育てたいんです。
 でも知らないことや出来ないこと、仕事をしながらでは困ることが
 いくらも出てくると思います。 そういうところを助けてください」

そういって頭を下げた。
菜織の両親は快諾した。
一人でなにもかもやろうとしているようなので心配したと泣いていた。
しばらく一番いい形が出来るまで
「七生」といっしょに僕も同居させてもらうことになった。

自分の両親には電話で報告した。 
心配してくれたのにつっぱねて悪かったとあやまった。
母は泣きながら、手伝えることはなんでもするといい
菜織の両親にはあらためて挨拶に行くといい
最後に「七生」に会いに行ってもいいかと聞いた。

僕は孫に会いに行くのも躊躇わせるほど
みんなを遠ざけていたのかと今更ながらに驚いた。

翌日にはさっそくやってきた菜織の両親と僕の両親と
みんなでかわるがわる七生を抱き話かける。


そんな風になにもかもがいいほうに転がりだし
丸く収まりだして退院の日。

七生のことを菜織の両親にまかせ
僕は彼女にお見舞いとお礼をしようとして
病室がどこか彼女の名前が何なのか・・
何も知らないことに気がついた。

彼女のおかげでここまできたのになんてことだ・・
僕は本当に自分勝手だ。

まず産婦人科で聞けばわかるかな・・
彼女は新生児室をよく覗いていたはずだから・・

顔なじみの看護士に彼女の髪型や顔の感じを
説明しながら尋ねる。

「うーん・・誰かなぁ。 感じ的には思い当たる人がいるけどね
 でも屋上で話をしたりしてたんでしょう? だとすると違うしね・・」

「違うんですか?」

「うん。 その人は屋上になんてとても行けないから」

なんだか体がざわざわする・・

「その人は・・どこにいるんです?」

「婦人科だけどね・・もういないのよ」

「いない? 退院したんですか?」

「・・昨晩ね・・亡くなったの」


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彼女は池谷良子さんといい
一月ほど前から産婦人科に入院していた。

交通事故で彼女は脳死状態になり
人工呼吸器で何とか生きていたが昨晩・・
風邪をこじらせて亡くなったのだという。

外科ではなく産婦人科にいたのは
事故にあったとき彼女は妊娠八ヶ月目で
子どもだけでもと帝王切開で取り出したが
結局だめだったらしい・・

彼女が池谷さんだったかどうかは顔を確認できないので
もうわからない・・
だいちそんなことはありえない。

もっとちゃんと・・たとえば池谷さんの家族に頼んで写真を見せてもらうとか
もっと他の入院患者をひとりひとりあたって探すとか
調べる方法はあるだろう・・

だけど僕は何もしなかった。

きっと僕のあっていた彼女は池谷さんだ・・
いや・・池谷さんの体をかりた菜織だったに違いない。
そう思った。

そう思いたかった・・

「直弘さん・・行きましょうか」 菜織の母親が七生を抱いて迎えに来た。

僕は七生を受けとりまっしろな天使のようなその顔を覗き込む。

七生の瞳の奥はきれいなルビーのような赤。
僕と菜織のふたりの血の色なんだと思った。

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その74 mc vol.29 「蛇」

 第29回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

今回はバトル・ロイヤルルール とかいうそうで

みんなで同じ課題をこなします。

始まりの文 作中に入れなければならない文 終わりの文

このルールに参加するのは初めて・・
難しいです(x_x;)

このルールの良さは・・「みんな同じことをしているんだ」
だからがんばろう・・と思えたこと。

このルールの辛かった所は・・「みんな同じ」だからこその
なんてゆうか・・自分が見えちゃう恐さがあったこと・・かな。

毎度同じようなことばかり言っちゃうんですが 力作ぞろい(@@;

まずは・・毎度のrudoが気になったものをご紹介。

「さよならフィフティ・ナイナーズ」 松永 夏馬 さん・・
主人公が女友達に彼を取られちゃった。。
だけど がまんしちゃう・・というか
取り乱すのはみっともないとかかっこ悪いとか
見栄というかプライドというか・・うまく言えないな。
なんとか正気を保っちゃうんだよね。
怒りたい時に怒ればいいのに 泣きたい時に泣けばいいのに
主人公もわかっているんだけど出来ないの。
それはなかなか知り合いの中で出すのはむつかしい・・
でも怒っているし悲しいし・・もうあふれそうになっていて
たぶん息をするのも意識しないと出来ないほどだったのじゃないかと思う。
そういう正気の狂気(?)を開放してくれるのは生活圏外の人しかないんだよね。
ないんだよね・・なんていいきっちゃって(^-^; 私はそう思う。
そんな感じで まあ・・えーと この主人公を開放してくれた男の人がいい味出してます♪
助演男優賞。


「散ると恋 」 空蝉八尋 さん・・・
うーん。おもしろかったぁ♪
こどもはこども・・と思ってるとガンと一発くらっちゃうかも。。
・・でも ここまでではなくてもきっとこれに近い世界なんだろうなぁ・・と
感心した。 ちょっと古いけど・・いやかなり古いけど・・さらに
なんかピントずれてるけど ジョディ・フォスターの「ダウンタウン物語」を
思い出したのでした♪


「絵本 ~the children books~」 真紅 さん・・・
絵本っていうからさ・・ほのぼのかな・・と思ったんだけど・・少しづつ狂気をはらんでしまった家族の話・・
と私には思えたのでした。この主人公は被害者のようでありながりやっぱり
自分がかわいい加害者で、それをあまり自覚していないんじゃないかというところが
ちょっとこわい。上品なホラーだなと思ったんだけど・・
著者の意図は違うかもしれない・・ごめんなさい。


「サイレン」 櫻朔夜 さん・・・
切なくて優しくてとても素敵な恋の話・・
今回の中で一番好きかも。すれ違って考えすぎてちょっとづつ狂っていく関係ってあるよね。
修復しようとする方法もなんとなくずれちゃってたり・・
最後の台詞で悶絶した♪ すばらしい♪

というわけで 今回のrudoの作品は・・えへへ♪
「イチオシ」 もらっちゃった♪
ばんざーい!ヽ(▽ ̄ )乂(  ̄▽)ノ ばんざーい!
・・・と甘んじてはいけない。
今回は題材に助けられた感が強い。

というのも とても書きたいと思ったものをみつけたのに
頭の中にはあっても 思うように書けないまま中途半端にしてしまったと
自分でくやしかったので・・。
思うようにかけないのは毎度の事ですが・・(ーー;)

でも感激しちゃいました。 管理人さんたち・・
とても伝わらないと思ったものを丁寧に拾って
読んでもらえたらしく私が書きたかったことをわかってもらえた
みたいだったから・・ありがとうございます。


本当は大幅に加筆修正をしてアップしたいところですが・・
どうもそういうことをしようと思うだけでしない不精ものrudoです。

なので MCのまま転載。


「 蛇 」 rudo著

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「人が変わっていくのは救いであって
自分が変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたい」


なにそれ・・誰が言ったんだっけ。
無理やりつれていかれた自己啓発の講義の中だったか
変な宗教かぶれの客が言ったんだったか・・


私はいやだ。
私はいまのままでいい。
自分が変わってしまう世界なんて それこそごめんこうむりたい。


誰が死のうが生きようが
そんなことは知ったこっちゃない。
それが私だ。
 

いままでも・・・これからも。


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激しい喉の渇きで目が覚めた。

「ちょっと 飲みすぎたかも・・」

のろのろと起き上がりふすまをあけたとたん
二日酔いも吹っ飛ぶほど腹が立った。

リビングに使用している台所続きの8畳間には
食べ残したポテトチップのかすがあちこちに飛び散り
ファッション誌やら 女性週刊誌やら まんがやらが
開きっぱなしのまま何冊も放り出してあった。

だからフィリピーナはいやなんだ。
むかむかしながら冷蔵庫をあける。

水がない。 ミネラルウォーターのペットボトル・・
ペットボトルは部屋の中にそのまま転がっていた。

「リリイ!!」 「リリイ いるんでしょっ」
乱暴に閉まっている方のふすまを開ける。

リリイは引きっぱなしの布団の上で寝そべって
足をぶらぶらさせながらお菓子を食べていた。

「オハヨ アキラちゃん オキルノオソイネ もうヒルよ」

「おはようじゃないよっ なんなの? この散らかりようは
 どうして片付けないの? なんでごみを捨てない?
 水も残ったならどうして冷蔵庫に入れておかないのよ?」

「アキラちゃん もスコシ ユックリシャベラないと ワカラナイヨ」

「いいからっ 片付けてよっ はやくっ」
食べているお菓子の袋をひったくる。

しぶしぶ部屋からでてきたリリイは雑誌をまとめて積み上げ
部屋の隅におしやり 空っぽのお菓子の袋をゴミ箱に突っ込むと
いたるところに落ちている お菓子のカスや粉を足で蹴散らした。

見ているだけで腹が立つ。

「なんなの? それは 片付けるっていうのはねっこうやんのよっ」

けっきょく アキラが全部片付け、掃除機をかけた。
なんだか納得がいかないが部屋の中が
すっきりと元に戻ると気持ちも少し穏やかになる。

「アキラちゃん ソウジ ジョウズね」
さっきまでなら 蹴り倒しているところだが
今なら睨み付けるくらいで許す。

だいたいフィリピーナってやつはだらしがない。
さらに言えば衛生観念もかなり怪しいと思う。

湯船の中で平気で下着を洗濯するのを見た時は鳥肌がたった。
やめてくれと怒ると なにをそんなに興奮しているのかわからないと言った顔で
「シタギ1マイにセンタクキなんて モタナイよお」 と言った。
日本人は細かい・・とぶつぶつ言いながら裸のまま部屋を歩き回り
今、洗った問題の下着を窓ガラスにくっつけた。

「リ・・リイ・・それは・・・なんなの?」

「ナニて? ホシテルヨ」

「そこは窓ガラスだよ?」

「カワクトオチルよ。 オチタラもうはいてもヘイキね。 カワイテルよ」

こういうことって・・フィリピーナの特性なんだろうか?
それともリリイ個人のものなんだろうか?

「ネエネエ アキラちゃん チョトだけソトイカナイ?」

リリイが甘ったるい匂いをさせながら近寄ってきた。
こいつはいつも 安っぽい匂いのガムを噛んでいる。

だめに決まってるだろう・・私は返事もしなかった。
だけどリリイはそんなこと少しも気にしない。

「アキラちゃん。 キノウね イバさんきたよ リリイ オカネもらたよ」

「伊庭さん来たの? いつ? なんだって?」

「アキラチャンが シゴトいって スグよ」
「ホントにオレのコかとか ホカにツキアテルヤツ イナイカ とかよ」

あーあ・・

「シツレイヨ デモ オコヅカイくれたからね ユルスヨ」

能天気な奴。最後の確認をされたんだよ・・

「ダカラネ アイスクリームタベイコウヨ ゴチソするよ」

「えっ?」 驚いた。
私は時々こんな風にフィリピーナを預かってきたけれど
部屋を提供している私に感謝を表した奴はひとりもいなかった。

いつもなら無視するところだが伊庭さんが来たのなら
もうあまり時間は残されてない。

「・・・わかった、行くよ。 でも私と一緒の時にはそのガム噛まないでよ。 
くさい」
リリイはちろっと舌を出して悪びれた風もなく
「ワカタヨ」 と言った。

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伊庭さんというのはフィリピンパブの経営者で
アキラのいるスナックの常連客だ。

一週間ばかり前 伊庭さんはリリイを連れて飲みに来た。
アキラが席に着いたとたんすぐに
「アキラ しばらくリリイを預かってくれ」

「いやだ。 私フィリピーナ だいっ嫌いだから」

「アキラー。 いきなりそれはないでしょう?
 どうしたのくらい聞いてくれよ」

「じゃ どうしたの?」

「あっちょっと待って」
そう言って伊庭さんはママを呼び何か食べさせてカラオケでも
やらせておいてとリリイをあずけた。

「あいつさ 子どもが出来たっていうんだよ」

「誰の?」

「俺の子・・・らしいよ・・本人は とにかくそうだって言ってる」

「伊庭さんが孕ませるとはまた 珍しいこともあるもんですね」
・・バカなフィリピーナ・・話をあわせながらちょっと同情した。

「まあ 寝るのには寝たんだけどね」

陽気に変なアクセントで歌うリリイの細い腰をみる。

「本当にできてるの?」

「さあね。もうどっちでもいいよ
 ちょうど打診が来てたところなんだ」

「打診があったならあずからなくてもいいんじゃないの?」

「普通はね。すぐ送っちゃうけどね。
 ただ今回はいくつか問題がある。 健の店のピナなんだ」

「健ちゃんの店の子に手を出したの?」

「知らなかったんだよ。 寝た後で聞いたらそうだったのっ」

「うちの店にスカウトしてもいいと思ってたけどね・・
 あんなこと言い出すようじゃね。 オレ怒っちゃうよね」

健ちゃんの店と伊庭さんの店はフィリピンパブ同士だが
仲良く共存していて困った時は女の子をトレードすることもある。
そして健ちゃんも伊庭さんも裏の顔を持っている。

ただ健ちゃんの店は「お春さん」をやらせる。 いわゆる売春だ。
裏は裏でも周知の裏だ。

伊庭さんはそういうことはしない。
どちらかと言えば店の外で客に会うことを嫌う。
だけどみんな伊庭さんのお手つきだ。
伊庭さんはまず入店前に自分で味見をする。
そして伊庭さんの裏は・・

「健ちゃん・・知ってるの?」

「なんとなく・・ね・・健とはさ その件に関しては対立してるから・・
 この先も分かり合えることはないだろうな」

「もう決まったんだね」

「たださ。もしかして健の店の客が相手かもしれないでしょ?
 それはそれで金になるし・・
 客じゃなくて誰か付き合ってる奴がいたら面倒だからね
 ちょっと調べる間 隔離したいんだよね」

「できれば うまくその辺も聞き出してくれると
 預ける期間が短くなるよ?」

「わかった。あずかるのはいいよ。
 でも そっちのほうは約束できない」

「なんでよ」

「フィリピーナ嫌いだから 口利きたくないもん」

「ふん。まあ いいや。どっちでも」

そう言って伊庭さんはタバコに手を伸ばし
「オレ・・嘘つかれるのって許せないんだよね」 と言った。

アキラのつけた火に顔を近づける伊庭さんの目は
へびのように ただ黒くなんの光も放たない。

その夜からリリイはアキラの家に来ることになったが
荷物は紙袋がひとつとぺらぺらのピンクのポーチひとつだった。

使っていない四畳半を示してアキラはリリイに宣言した。

私がいない時はなるべくここにいること。
そっちの六畳は私の寝室だから絶対に開けないこと。
朝は私が起きてくるまでなにがっあっても起こさないこと。
部屋の電話には絶対に出ないこと。
ここにいる間は誰とも連絡をとらないこと。

リリイは神妙な顔をして「ワカタ」 と言った。

「アキラちゃんホントはなんていうの?」

「なにが?」

「アキラはオミセのナマエでしょう
 オトモダチは ホントのナマエをオシエアウよ」

「私はあんたと友達になる気はないっ
 だから教えない、どうしてかっていうとね。
 フィリピーナがだぁーいっ嫌いだからっ」

リリイはちろっと舌を出して 「ワカタ」 と言った。

-----------------------------------------------------


「ハヤクハヤク アキラちゃん」

あずかりものを外に連れ出すのは初めてのことだ。
今回の私はちょっとおかしい。
普通あずかるといっても 一日か二日か・・
リリイとはちょっと長すぎたのかもしれない。

駅前の大型スーパーに入っているアイスクリーム屋。

「アキラちゃん ドレいい? ドレでもいいよ」

「チョコチップとマロンクリームとラズベリーのトリプル」

リリイがポーチを握り締めて唖然としている。

「嘘だよ。 チョコチップ。 カップで」

「ナンデ イイヨイイヨ ワタシ ドレでもいいって イッタよ」

「本当にいいよ。 そんなに食べれないから」
そう言っているのに リリイはもう注文している。

三段重ねのアイスクリームを二つ持って
ニコニコと寄ってくるリリイを見ていてなんだか
不思議な気持ちになった。

怒られても文句を言われても どこ吹く風。
おおらかで 細かいことを気にしなくて
だけどお金にシビアでしたたかで・・・

「オイシソね。 ワタシもトリプルにシタヨ」
手渡された今にも倒れそうなアイスをもてあまし気味になめながら
私はこの娘を助けてあげたいとおもった。

「リリイ 妊娠したって嘘でしょう?」

嬉しそうにアイスをあちこちの方向からなめていたリリイが
固まった。

「リリイ 伊庭さんはね 嘘がすごく嫌いなんだよ」

「ウソジャナイヨ。 イバさんのコ。 マチガイない」

「・・・イバさんのコよ」

「伊庭さんは・・子ども作れないんだよ・・」

リリイの目が泳ぐ。
「・・ジャ オキャクさんのコかも・・」

「リリイ 逃がしてあげるよ」

「ニガスて? なんで?」

「・・殺されちゃうよ」

「・・・・・」

「昨日伊庭さんが来たなら 早ければ今晩・・」

「よくワカラナイよ」

「生きていたい?」

「アタリマエヨ フィリピンにカゾクいるよ ワタシのおカネ マテルよ」

「じゃあ よく聞いて。私の言うとおりにして? いい?」

-----------------------------------------------------

いつもより長く感じる時間。
まだ8時、まだ10時・・

リリイはちゃんと言ったとおりにしただろうか・・
いつもの調子で「ワカタ」 そう言ったけど
どこまで真剣なのかがよくわからない。

どうか うまくいきますように・・・

きっと今晩ってことはないと思う。
私のいないときには連れて行かないと思う。
今までそんなことは一度もなかった。
きっと明日の朝だ。
だから 私が店に出ている間に出て行かせて
部屋にもどったらリリイがいなくなったと伊庭さんに連絡する。

伊庭さんはきっとあちこち探すだろうけど
大丈夫 見つからない。
リリイを匿ってもらう場所は私の古い友達だ。
伊庭さんには私が裏切ったなんてわからない。

大丈夫・・大丈夫・・
そればかり念じているうちに何が大丈夫なのかも
わからなくなった。

午前2時 家に戻る。 電気はついていない。
「よかった・・間に合ったんだ・・」

玄関をあけたとたん 切ないあえぎ声が聞こえた・・
私は固まったまま動けなくなった。
しばらくしてふすまを開けたのは伊庭さんだ。

リリイ・・どうして。
私は立っていられないほど震えていた。

伊庭さんが近づいてくる・・蛇のような目をして。
逸らしたくてもそれを許さない蛇の目。

「・・アキラ。 フィリピーナは嫌いじゃなかったのか?」

「・・・」

「隆一が見てたんだ。 仲良くアイスクリーム食べてたって?」

隆一・・隆一は伊庭さんの店のバーテンだ。
「ご・・ごめんな・・さ・・」

いきなり胸倉をつかまれた。 
「あやまるなっ 最初からあやまるようなことをするなっ」

上気した顔のリリイが顔を覗かせた。
「ドシタノ? アッ アキラちゃんカエテキタ?」

伊庭さんはリリイに向かってことさら優しげに声をかける。
「じゃあ 車で待ってるから支度ができたらおいで」

そして私に向き直り言った・・
「アキラ 今回は許してやる。 次はいくらお前でも
 牧場送りだ・・・」

ドアが閉まる音と同時に私はそのままへたり込んだ。

リリイが心配そうにかけよってくる
「アキラちゃんドシタノ? グアイワルイノ?」
大きな目・・まず目を取られる。角膜・・

「リリイ どうして行かなかったの?」
それから・・順番に・・腎臓も肺もすい臓も小腸も肝臓も・・

「イコウトしたら イバさんキタヨ。 
 でも アキラちゃんのカンチガイヨ。 イバさんオレのコならケッコンするって」
東南アジアのどこか・・

「でもアキラちゃんのイウトオリ ニンシン ウソ。  
 ワタシ ちゃんとイッテ アヤマタよ。 ユルシテクレタ これからツクレバ
 イイよって」
死ぬまでそこから出られない。

とろけそうなリリイ・・

「アシタ イッショにフィリピン カエルよ」
家族がいるっていってたね・・リリイ。

「キュー デショ でも ドシテも モイッカイ アキラちゃんにアイタカタの
 イバサンもソウシナサイて」

「そうなんだ・・・」
「アヤマロとオモタよ イウトオリシナカッタ から」

「うん、もういいよ」 

「・・・アキラちゃん ナイテル? ワラテるけど ナイテルよ ヘンよ」

そういってリリイも笑う。

「アキラちゃん もうイクよ イバさん マテルから」

「・・・リリイ アイスありがとう。 ごちそうさま」
「アキラちゃんジャア・・」
玄関を出ようとしてリリイが振り向く。

「バイバイ リリイ」
永遠に・・バイバイ。

「アキラちゃん ホントはナマエなんてゆうの?」

私は背中を向けたまま返事をする。
「教えないよ。 友達じゃないから・・前もそう言ったでしょう」

「くすくすくす・・アキラちゃんラシね。 バイバイ」
バタン・・と永遠のドアが閉まる。

・・ばいばい。

言葉はいつだって乱暴に どちらかに分ける。
途中の気持の動きも・・
そこにいたる経過も無視して・・

結果だけをつきつける。

yesか noか・・
好きか 嫌いか・・

友達か 友達じゃないか・・


リリイは友達じゃない。
助けられなかったあの娘は・・

友達じゃない。

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その74 MCばとん♪

MysteryCircle

《 ルール説明 》

●見たメンバーは全員やってね。見てない人がいたら、進んで見せてね。
●回答編は、自分のブログでやってね。そしてここにトラックバックしてね。
●これはMCバトンだから、五人の人に回さなくていいよ。回したいならそれはそれで結構だけどね。
●強制じゃないよ。 ・・・・・でも、やんなかったら、僕にとんでもない仇名付けられるかもね。 ぷすすっ♪
●mixi(他SNS)不可! 但し、ブログで載せたのと同じ文面ならばOKとするよ。

Q1:あなたのHNを教えてねっ!
rudo

Q2:あなたの持っているブログ名全てとURL、簡単な紹介をお願いねっ!
rudoのはここだけ。

Q3:MC暦はどれぐらい? 何作品ぐらいが掲載されているのかな?
vol.25から参加。 3つくらいしか出してない( ̄Д ̄;;

Q4:イチオシは何回貰った?
そんな・・いつか欲しい。

Q5:みそ(ぴよ、みじんこも含む)は何回取ったかな?
まだ・・これから。

Q6:僕(night_stalker)に誘われて来た? それとも、別の人?
なずなちゃんに紹介してもらった。 でも入れてっていいにくくて内藤さんに迎へに来てもらった。

Q7:僕(night_stalker)の寸評は、甘い? 辛い? 感想、文句もあったらどうぞ。
優しい。

Q8:MC以外にも、創作の場やコミュニティに所属している?
絵ならしてる。
あとは・・novelwoodに時々書き捨ててる。

Q9:MC以外でも、創作作品は書いている方かな?
最近ときどき書く。

Q10:MCのお題は、辛い? 楽勝?
お題による。

Q11:作品の創作は、お題を見て考える? それとも、イメージした作品にお題を当て嵌める?
見て考える。

Q12:出題から締め切りまでの期間を、「10」としたら、構想と執筆の割り合いは?
構想 1 残りはだらだらとキーを叩いている。

Q13:MC作品を作り上げるのは、正直言って厳しいですかぁ?
(-_-;ウーン

Q14:今の執筆期間に満足しているかな?
してる・・と思う。

Q15:通常MCの間に挟まる企画は、多いと思う? 少ないと思う?
どうだろう・・でも通常が好き。

Q16:執筆に苦労する点はどこですかぁ?
すべてだけど・・お題がうまく入れられなくてそこだけ浮いちゃう時。
他の人のお題みて「そっちならなんとかなりそうなんだけどなぁ。交換してくんないかなぁ」とか
よく思う。

Q17:ストーリーが一番思い浮かぶ時はどんな時? どんな場所?
普通に突然思う。 歩いていて。 人と話していて。 お皿を洗っていても 本を読みながらも
テレビのニュースをみてとか 買い物しながらとか・・

Q18:推敲には時間掛けてる?
出す直前まで 考えているけど別に直すとかするわけでもない。

Q19:自分の創作作品って、どんな感じだと思う?
輪郭しかないと思う。

Q20:他の人の作品は読んでいる?
必ず全部ではないけど 読む。

Q21:今まで出題した事がある人へ質問。その時に選んだ本の紹介と、選んだ理由を教えてね。
好きだから。 

Q22:影響を受けたとか、お気に入りのMC作家さんを教えてね。(何人でも)
お気に入りの人。
李 九龍さん・・もうMCは書かないって言った時 愕然とした。
なずなさん・・ながいつきあい。 影響されたいと思いつつベクトルが逆らしい。
夏馬さん・・おもしろい♪
monicaさん・・読みやすい。共感しやすい。

Q23:自分のMC作品で、自分で気に入っている作品を三つ教えてね。そしてその理由も。
自分の作品って・・3つしか書いてないし・・気に入っているというか・・一番つまらないなと思いつつ
「always I think of....」が好き。 観音様が出てくるから。

Q24;「今日から君も管理者の仲間入りねっ!」って言われたら、どうする?
やだ。

Q25:今年度の抱負や、今後の目標などを・・・。
起承転結のあるものが書けたらなぁ・・と思う。

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その73 mc vol.27 「always I think of....」

 第27回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

こりずに参加しています(;´▽`A``
今回の「お題」は わたくしrudoが
出させていただきました。

自分で出しておいて 自爆・・


今回は自分の出したお題を
みなさんがどんな風に展開してくれるのか?
という別の楽しみがあったので
いつもより((o(*^^*)o))わくわくしました。

その中でrudoが 気になった作品を
ここで紹介いたします。


「Desire」 Monica さん・・
自分しか愛せない女性の哀しさを感じました。
居場所がないと感じながら育つと
なかなか人を愛せないんだろうなぁ・・と。
まず自分が愛されたいと熱望してしまうから。

なんてことを思いながらせつなく読みました。


「欺いた仮面」 かしのきタール さん・・・
こんなん書いちゃってぇ・・

お母さんたちの係わり合いが生々しいです。
妙子さんが悲しいです。 こういう孤独感は精神にくるので
こわいです。 絶妙のところで終わっていますが・・
その後が知りたいと思ってしまうのでした。


「Time is ....」 櫻朔夜 さん・・・
しょっぱなからのめり込み。
からからと乾いた語りが重いぞ重いぞと感じさせます。
この主人公が思い残すことなく最後の仕事を終えたことに
救いを感じてしまいつつ、この主人公の手にかかった13人の
被害者の事情までいろいろ想像しちゃったりして
この書き手さんはそんなこと望んでいないだろうと
思うのですがついついあれこれ考えちゃう奥の深い話だと思いました。


「夜という海」 国見弥一 さん・・・
言葉のつむぎ方がすてきで
没頭して読ました・・ラストで「あっ? なんだ? あはははははは・・・」
と笑ってしまいましたが笑いは はぁ~・・・ためいき・・そして沈黙。
おかしくて、寂しくて、哀しくて・・・そんな話でした。

実は・・・Clown さんに割り当てられていたお題が
私は一番気にかかっていたのですが・・残念。
今回はpassみたいです・・

・・ではrudoの提出分です。
これを書くにあたり ずーっとBGMは
Daniel Powter - Bad Day でした。
歌詞と内容はまったく関係ありません。
もしよかったら 聞きながら読んでみてください。

さんざんかけていたので 家の人たちは
この曲が大嫌いになったようです。
ちょっとでも かけると 歯をむいて怒ります(x_x;)

こちらから 聞けます。

Bad Day


◎「きれい、くるくるウズができるね」 で始まり・・

◎「ゆらゆらと揺れる炎の世界へと入っていった」 
 で おわる・・

「 always I think of ... 」 rudo著


私は もうどこにも心を寄せたりしない。


M0a



西日がまぶしくてよく見えない。
テレビの画面に窓の外が映りこむ。

私はシュンに抱かれながら
テレビを見ていた。

シュン。見て、きれい。
くるくるウズができるよ・・・

リキッドタイプのミルクのCM。

コーヒーに上からミルクを垂らす。
ミルクの白は
内側から外へと 渦をまく。


私とシュンのsexは
ご飯を食べたり
歯をみがいたり
本を読んだり

そんな風なことと同じ場所にある。
いつも 平常心のまま始まって
平常心のまま終わる。

声も立てず・・吐息ももらさず
普通におじやべりをしながら
いつまでも ただ
つながっているだけだったりする。

それは私がなるべく気持ちを平らかに
しようとしているせいだ。

不感症なわけではない。
体はちゃんと反応する。

だけど触れても触れられても
膜を通したように遠く
心にとどかない。

とどかないようにしている。



「コーヒー飲みたくなっちゃったな。
 ちょっと飲んでから 続きにしない?」

うん。いいよ。

私は裸のまま お湯を沸かしに行く。

シュンはコーヒーメーカーや
サイフォンで淹れるコーヒーより
インスタントコーヒーが好きだ。

ちゃんとしたの淹れようか?
私 豆を挽くのうまいのよ。
そういったこともあるけれど

「そんな洒落た育ちじゃないんだ」
そう言って 笑う。

インスタントコーヒーをカップに入れて持っていく。

シュンはカップを受け取り
一口飲むと 私を膝にのせ
ゆっくりと中に入ってくる・・・

「あれは・・・しょうゆだよ」

しょうゆ? なにが?

「ミルクが きれいに渦をまくのは
 コーヒーじゃなくて しょうゆだからなんだ」

あぁ・・さっきの話か・・と納得する。

シュンはそういう人だ。

何か話していて
その時 答えが返ってこなくても
しばらくして・・
あるいは ずいぶんたって・・

もう忘れた頃に
唐突に返事がかえってきたりする。



「りょうこ。俺・・・働くよ」

今だって、働いているじゃない。

「そうじゃなくて、ちゃんとどこか就職してさ」

・・・

「もちろん墨も消すよ」

・・・

「だからさ。 俺たちも ちゃんとしない?」

私のことなんて 何も知らないくせに・・・


「必要なことは知ってるさ。
 りょうこは何を知ってほしいの?」

私はシュンのこと好きじゃない。

そっぽを向いてそう答える。
シュンは少し傷ついた顔をして
でもちっとも気にしない風に
私を抱きしめる。

「嘘だよ。りょうこ。
 じゃあ どうしてここにいるんだよ」

「かんのん」がいるからよ。
「かんのん」に抱かれていたいからよ。
最初にそう言ったじゃない。


「うん、いいよ。
 それでもいいよ。りょうこ」


シュンは 今度は上になり
浅く 深く
はやく ゆっくり 動く。
そして 耳元でいつまでも
 「りょうこ りょうこ・・・」 とささやき続ける。



------------------------------------------------------------

「かんのん」

観音。


シュンは左肩から肘にかけて精緻に
彫られた観音を持っている。

「多羅尊観音」(たらそんかんのん)というのだとシュンは言った。
救済者なのだとも・・・


日本ではあまり知られていなくて
だから決まった姿はないのだそうだ。

シュンの観音は 三日月の上に立ち。
小さな炎を手にしていた。

三日月はうっすらと黄色く
お湯に浸かったり
汗をかいたりすると
色鮮やかに浮き上がる。



シュンと初めて会ったのは去年の秋祭りだ。

賑やかな音に誘われて
覗きにいってはみたけれど

家族づれや 子供たちの笑い声は
かえって私に「誰もいない」という事実をつきつけた。

あまりの孤独にしゃがみ込んだ目の前に
シュンが金魚すくいの店を出していた。

そして「かんのん」を見た。

私は観音に触れてみたいと思い。
観音の彫られた腕に抱かれたいと願った。

「その観音像の腕で私を抱いてくれませんか?」

私はシュンにそう頼んだのだった。


Man02



----------------------------------------------------


夢を見ていた。

「かんのん」
小さな炎を手のした「かんのん」

炎はくらりと揺れて
「かんのん」に不思議な陰影をつける。

そして私に向かって 手をさしのべる。

私はその手にすがろうと
手を伸ばす・・・

ギュッと握られて目が覚めた。

私の手をとっているのは
シュンの暖かな手だった。


「りょうこ。仕事に行って来る」

そんな 時間?

「うん。3時過ぎた」

シュンは今、二つ先の駅にある神社の
秋祭りに出店している。

また・・金魚?

「いや、たこ焼き。
 夕飯はたこ焼きにしようぜ」

青ノリとカツオ節はかけないでね。

「何だよ それ。
 そんなの たこ焼きじゃねえよ」

シュンは苦笑しながらドアを開け
振り向いて 早口に言う。

「あのさ、さっきの話だけどさ・・
 ちゃんと考えてみてくれないかな」

私はシュンのことを特に好きなわけじゃないの。


「観音像が気に入っているならこのままで
 なんとかするよ。ずーっと長袖で通せばいいんだし」



私は誰も好きにならないのよ。



背中を向けたまま答える。

怒ってよ シュン。
怒って嫌いだって言ってよ。
そう念じる。

だけどシュンは怒らない。



「時間ないから・・行くけど
 帰ってきたらもう少しちゃんと話そう」



シュンはそう言ってドアを閉めた。

-------------------------------------------


途方にくれた。

私はもう誰かを大切に想ったり
誰かを特別な位置においたり
そういうことをしたくなかった。


私が大切だと思う人・・・
私が失くしたくないと願うもの・・・
みんな どこかにいってしまうから。


まだ学生のころに両親をなくし

そのあと世話を引き受けてくれた
伯母をなくし・・・ 

結婚して二年もたたずに
夫をなくし・・・

その時 おなかにいた子も
流れてしまった時

あまりの事に 騙されるのを覚悟で
占い師に視てもらった事がある

私の情念は強く。激しく。
気持ちを傾けると相手を
呑みこんでしまうのだと言われた。

嘘だとか本当だとかは
もう どうでもよかった。

こんな悲しみを味わいたくない・・・
その為だけに私はこの先ずっと
どこにも 何にも 心を寄せたりしない。
そう決めた。

決めたのに・・
いつのまにかシュンは
私の大事な人になっていた。


極力考えないようにしているだけで
ずっとシュンといっしょにいたいと
思っていたのは私の方かもしれない。


そう認める事は怖かった。
認めたとたんにまた
私はシュンを失ってしまうんじゃないかと
今までがそうだったように・・・


シュンには「かんのん」がついているから
大丈夫かもしれない・・
自分の都合のいいように
そんな愚にもつかない事を思ってみる。

観音様ってそういうものだよね?

苦しむ人の声を聞き
救ってくれるんじゃなかったっけ?


帰ってきたら 話してみようかな・・
私のこと 私の思っていること

私もシュンが好きだっていうこと。
シュンに・・シュンとシュンの「かんのん」に。

そう思うとなんだか
少し 気持ちが明るくなった。

どこから どんな風に話そうかと
考えているうちにもう9時だ。

9時にはお祭りが終わる。

10時にはかた付けも済んで
みんなでちょっと 一杯飲んで・・・

たいてい 11時には 
「りょうこ。たこやき」だったり
「りょうこ。 金魚」だったり

「りょうこ。やきそば」だったり・・

そんな風に言いながら帰ってくる。


今日はたこ焼きだって言ってたから・・
たこ焼きだけじゃさみしいから
サラダでも作っとこうかな。

たこ焼きは たこ焼きだけかなぁ。

 
だけどシュンは12時を過ぎても帰ってこなかった。



--------------------------------------------------


お祭りの後のささいな喧嘩だった。

小さな冗談が 罵り合いに変わり
怒鳴りあいになり・・・

手が出て・・・・

周りを巻き込んだ小競り合いになり
その真ん中で シュンは刺された。

血が流れ出るのに時間がかかり
倒れるまでに時間がかかり

まわりが気づいた時は
手遅れになっていた。


白い布に包まれた シュン。

呆然とする私の横には
警官がいて あれこれと
シュンのことを聞いてくる。

私は何一つまともに答えられない。

私はシュンの本名さえ知らなかった。



私が大切だと思う人・・・
私が失くしたくないと願うもの・・・
みんな どこかにいってしまうから

「もうどこにも心を寄せたりしない」

そう決めたのに・・
私は何を・・・


私の隠していた想いがシュンに向かい
シュンがゆらゆらと揺れる炎の中に
呑み込まれるのが見えた気がした。



もう私には流す涙も残っていない。

私はただひたすらに
シュンの腕の「かんのん」を
撫でさする。

 


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その72 mc vol.26 「 いらない子ども。。」

 第26回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

参加は二度目ですが・・・
ここ ホント なんかちょっと レベル高い気がします・・
(2度目にしてついていけない感じ・・)

今回は参加者も多く 面白い話がたくさんあったので
良かったら読みに行って見てください。

その中でrudoが 気に入ったのをこっそり
ここで紹介いたします。

評する・・わけじゃないですよ そんなえらそうなことはできません。
単に これが好きだという 好みです♪

「I'm The Book」 松永 夏馬 さん・・

 斬新なアイディア。

 楽しい展開。
    
キュートな登場人物(?) BOOKさん。

 終わり方も軽く楽しく・・  
この二人のその後が是非知りたいと思いました。
 
もうひとつ。。
「非常識」 おりえさん・・・
 単純に 素直に おもしろかったです。  
笑った。 幸せ。


では・・ちょっとこのサークルでやっていくのは
無理があるんじゃないか? と思う。

今回の提出分です。


◎「また、大変な騒ぎになりそうね」 で始まり・・

◎「私がいるために、笑いたい時にも笑えないなんて言われるといやだからね」   
で おわる・・


「 いらない子ども。。 」 rudo著

 
ぐったりした 小さなからだ。  
もうすぐ3つになる 私の子ども。

 不自然に捩れた腕。

 「また、大変な騒ぎになりそうだな・・」  
・・・と麻里さんはボンヤリと思う。

 散乱したオモチャの上で  
つっぷして動かない その柔らかな頬に
 
涙のあとが 白い。  
口の周りに 鮮やかな赤。
 
鼻血かな・・
 口を切ったのかな・・

 どっちでもいいか  
どっちでも同じ。
 
血が出ていることには変わりない。

 
今度はどうなるんだろう
 もう 許してもらえないだろうな。
 2度目だから・・
 
腕が折れてるみたいだし・・
 病院に連れて行くだろうな。

 そしたら体中のあざを見つけて   
お医者さんは顔色を変えるだろう。
 
赤や黄色や青や紫のあざ・・
 日常的に暴力を振るわれていると判断するだろう。



 
一度目の大変な騒ぎは  
子どもが6ヶ月くらいだったかな。
 
なんだか はっきりしないな。
 あまり憶えていない。
 
お風呂に入れようとしていて  
子どもがものすごい声で
 泣いたから・・・
 
こわくなってタオルにくるんで  
床に置いたのだったかな。。
 
壮太さんが何かわめきちらして  
子どもの体が真っ赤だったような気がする。
 
またあんな風に  
壮太さんが怒って  
子どもが泣き叫んで・・・

 
そういえば・・この子
 どうして泣かないのかしら?
 さっきはあんなに癇癪をおこしていたのに。
 
眠っちゃったからかな・・

 
いいな 私も眠りたい。  
そうだ薬があった。  
飲まなかった薬。
 
ヤケドさせちゃった時  
お医者さんが私にくれた。

 
あれ?  
ヤケドをしたのは子どもなのに  
どうして薬は私に出たのだったかしら?
 
いろんな種類の薬。  
ちゃんと飲んでるふりして  
飲まなかったんだよね。
 
だって あの薬 飲むと
 ぼんやりしちゃって
 なんだかすごく疲れるし  
体もむくんじゃうんだもの。。
 
飲まなくたって大丈夫だったし  
大丈夫だったのかな・・?
 
やっぱり飲まなきゃいけないものだったのかな・・  
みんなは飲んでると思ってたんだよね。
 
今更そんな事いっても 遅いか・・

 ほら・・あった。  
全部残ってる これ・・
 
私も眠りたい。  
もう眠りたい。
 
いま飲むから   
全部のむから・・
 
起きたくないよ・・・

------------------------------------------------------

 
その電話を受けたのは  
もうそろそろ帰ろうかと帰り支度を  
始めたところだった。
 

「保健婦の工藤さんはいらっしゃいますか?」  
「はい。工藤は私ですが・・」

 「その節はお世話になりました。はやた まりです」

 工藤さんは記憶をさぐる。
 はやた・・
 はやた。
  はやた まり?


 「・・・あっ」

 早田麻里 28歳

 2歳6ヶ月の息子に頭蓋骨亀裂骨折・左上腕骨折を負わせて
 傷害罪で逮捕。
 
判決 実刑2年 執行猶予5年。
 
ただ心神耗弱が激しくそのまま精神科に入院した。





 あれから3年たっている。


 彼女の件には関わったけれど  
もう何もできることはなかった。
 結局、彼女とは話しをすることもなかった。


 なのに・・どうして彼女は私を知っているんだろう?
 私に用事があるとは思えないけど・・


 すぐ近くに来ているというので
 駅前の喫茶店で会うことにした。


 「お帰りのところをわざわざすみません」」
 そう挨拶する彼女に病的なものは
 もう、感じられない。

 何から話せばいいのか悩む。  
事件には触れられたくないかもしれない  
でもそれ以外に話すこともない気もする。
 
「いいえ。いろいろと大変でしたね」
 「もう大丈夫なの?」
 
「はい。半年くらい前に退院したんです」  
「まだ通院してますけど・・」

 
1分・・ 3分・・ 5分・・  
10分

 気詰まりな沈黙。

 「今日はお礼を言いに伺ったんです」

 「・・お礼?」


 「はい。あの日 私のために泣いてくれてたのは工藤さんですよね」

 「・・えっ・・?」


 「病室で目が覚めた時 工藤さん来てくれてましたよね」
 「そばにいて 泣いてくれてましたよね」
 「かわいそうに・・って・・」

 
かわいそうに・・?  
会いにはいったけど  
そんな事言ったんだっけ?
 
かわいそう  
かわいそう

 かわい・・そう。
  ああ 思い出した。

 顔を見て驚いたんだった。
 見覚えのある母親だったから。



 一度目は麻里さんが
 生後6ヶ月の赤ん坊に
 ヤケドを負わせた時だ。

 あの時にもっと もっと強く  
思った事を主張すれば
 こんなにひどくならなかったんじゃないかって・・  
後悔したんだった。

 
私は保健婦になったばかりで  
自分の感覚に自信も・・  
裏付ける経験もないひよっこだった。
 
不注意でお湯の温度に気がつかなかったって話しだったけど  
母親の問題かもしれないと病院からの依頼で先輩と一緒に行ったのだ。
 
ご主人の話しや他に傷もない事から  
軽い育児ノイローゼだろうから  
一度 精神科医に見てもらって  
カウンセリングをすれば問題ない。  
先輩はそう言った。
 
私は処置室の前に座ってうなだれた彼女を見ながら  
いやな感じがした。  
一時的にも子どもを乳児院に離した方が  
いいんじゃないかと思ったのだ。
 
先輩にも言ってはみたが
 ただ嫌な感じがするだけでは説得力に欠けた。
 乳児院はいつも満杯なのだ。  
本当に重症でなければ推薦できないと言われた。
 
確かに診断は軽い育児ノイローゼで
 少し鬱になっているが精神安定剤と抗鬱剤で
 大丈夫だろうとの事だった。

 
だけど それではだめだったのだ。
 
二度目の事件は起きた。  
薬を大量に飲んだ彼女が目覚めた時
 とても話しができる状態じゃなかった。

 あれ以後2年近くもどれだけ苦しんだんだろう・・  
この時の彼女はすっかり壊れていた。

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「お礼だなんて・・私は何もできなかったのに・・」


 麻里さんはちょっと困った顔をして
 言葉に迷いながら話しだす。


 病院の時も
 警察が話を聞きに来た時も
 裁判の時も
 
良く憶えていないんです。

 
記憶がとんでいたり  
思い違いだったり
 
みんな深刻な 怖い顔してた気がします。
 
怖い顔をして・・  
知らない言葉を投げつけられてた気がします。
 
どうでもよかったんです。  
死んだほうがいいと思ってました。  
刑務所でも精神病院でも  
どこに行く事になってもどうでもいいって。

Mari

 病院に入ってからも
 死ぬことばかり考えてました。
 
そんな事ばかり思っているから  
ちっともよくならなくて・・
 
カウンセラーの人がある時言ったんです。
 何かしたい事はないの? って・・
 
会いたい人とか  
やりたいこととか・・
 
死にたい死にたいっていいながら  
死ねないのは本当は死にたくないからだ。
 
何か目標を決めて  
そしたらきっと良くなるから
 
ここを出て それでもまだ死にたかったら  
今度こそ本当に死ねばいいって・・  
ここにいる限り  
私は絶対にあなたを死なせないから  
死にたい・・死にたいと言いながら  
ここで一生を終えるのよ。


 
そう言われたんです。

 やりたい事もない 会いたい人もいない  
私には何もない・・

 絶望的になった時 思い出したんです。

 
みんなが私を怒っている中で  
私のために泣いてくれていた人がいた。  
かわいそうに・・と泣いてくれた人。
 
私はその記憶にすがりつきました。  
今はその人のために生きよう。

 
そしていつかその人に会いに行こう。
会ってありがとうと言おう・・そう思ったんです。



でも誰だったのか全然思い出せなくて・・

 時間がかかってしまいましたけど
 やっと会いにこれました。
 
今こうしているのは工藤さんのおかげなんです・・

 「ありがとうございました」
 
麻里さんは深く深く 頭を下げた。
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 二人で駅に向かいながら
 麻里さんはぽつぽつと
 話しをしてれた。

 あの事件の後すぐ離婚が決まった事。
 近所の本屋で働いている事。  
もう「死にたい」とは思わなくなった事。
 
今は横浜に住んでいて  
でも近々叔母さんの所へ行くと言う。
 
「どちらに行かれるんですか?」
 
「沖縄です」
 「叔母さんが一人で民宿をやっているんです  
手伝いをしながらのんびり暮らそうと思って」
 
「そうなの・・」
 
聞いては悪いかと思いながら  
もう会う事もないだろうと思うと気になった。
 
「お子さんは・・・ご主人が?」
 
「はい。親権ももちろん彼の方です」
 
くったくなくさらさらと麻里さんは答える。

 「沖縄に行く事は知っているの?」

 「言ってないです。たぶんもう会うこともないと思うし
  離婚する時に約束したんです。 会わないって」

 「子どもにはお母さんは死んだって事にするからって」

 「そんな・・それで納得したんですか?」
 
「はい」

 
「死んだ事にするなんて・・本当にいいの?」

 「はい」

  ・・・
 「健太にはひどい事をしてしまいました」

 「あっ健太って言うんです。子ども・・  
 私、子どもの名前もわからくなってたんです」

 
「会いたいなぁって思うこともあります。  
 会って謝りたいなぁって・・」

 「でも・・私がいるために、笑いたい時にも笑えない
  なんて事になったらいやじゃないですか」
 
「それなら死んだ事にしちゃったほうがいいかなって」


 そう言って麻里さんは笑った・・
 素直で柔らかな笑顔だ。


 
でも・・工藤さんにはどうしても  
泣いているように見えて仕方なかった。




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その71 MC vol.25 「 トミさんと私。。 」

今回 第25回  MysteryCircleに参加させていただきました。


◎「どうして本当のことを言ってるときに限って、誰も信じてくれないのかしら・・・。」
から始まり。。
◎「その顔は月影で見るには恐ろしすぎる。。。」
で終わる。。

『トミさんと私。。』

著者:rudo  


「どうして本当のことを言っているときに限ってみんな信じないのかしら」
「あんまりありえないことを言うからじゃねえか?」