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その77 mc vol.31 3rd Anniversary 

 第31回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

今回は 3rd Anniversary なんと3周年なんだそうです♪
おめでとうございます。

でもって この回には とてもとてもとても 嬉しいプレゼントがありました♪
タイトルを作ってくれたんです♪ ワーイワーイ★

なんといっても 記念イベントですからね。
3歳の誕生日は特別です。
七五三も まずは三歳から・・(ちょっと 違う・・(--;)

なので私も ネタにしようと思ったの全部いれちゃいました。
次はもう・・な・・い・・??・・ (^^;



◎「林の向こうに春があるんだそうです。どういう意味ですか」
 で はじまり・・


◎物語が進行中である、というこの瞬間が楽しい。
 で おわる・・

でもって・・今回の特別ルール。
途中どこでもいいから どんな使い方でもいいから 
ミステリー・サークル と入れる。

 Anatano


rudo 著

「林の向こうに春があるっていうんです。
 どういう意味なんでしょうか・・
 意味なんてないんでしょうか・・」

「モルヒネのせいで
 幻覚でも見てるんでしょうかねぇ」

病院の屋上で疲れきって
黒ずんでしなびた女が言う。

この黒ずんでしなびた女の夫は
すい臓がんの末期で
明日死んでもおかしくないと言われながら
もう二ヶ月も生きているらしい。

最初は泣いていたこの女も
看病に疲れたんだろう
いまや・・「早く死んでくれ・・もう死んでくれ・・」

全身で叫んでいるのが見える。

最近は少し動いても痛がって
気がつくと鼻から口から血が出てるんです。

本当にいくらでも出てくるんです。
ふいても ふいても・・
タオルなんてあっというまに血びたしになってしまって・・

枕カバーもシーツも・・
変えても変えても間に合わなくて・・

洗っても落ちなくて・・
茶色いしみになって残っているんです。

・・・テレビでもよく 癌で死ぬ場面とかありますけど・・
あれって 嘘ですよね。
あんなにきれいなわけないじゃないですか・・


癌はくさいって いうけど本当らしい。

血生臭さと
薬品と
消毒液と

そして どうにもできず腐っていく細胞の発する匂いだ。

「ちょっとかいでみたいな・・」

女は嫌悪感を丸出しにして私を睨む。
でもすぐに力なく肩を落として・・

「本当に見舞う気があるなら早いほうがいい・・
 もう今 戻って死んでいたっておかしくないんだから」
と涙声で言う。


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今日もね・・がまんしたよ。

もうね 7年たつよ。
それでも いますぐにだってやりたい気持ちはある。

そういって 少しくたびれたような男が笑う。
笑ったのかな・・
ちょっと口を歪めただけにしかみえない。

どこがどう・・ってわけではないけど

何か違う。
どこか違う。

それは・・たぶん一生消えないんだろう。

男は覚せい剤に手を出した。

一度やったらおしまいだ。
わかっていた。

なのにどうして手を出したのか・・

男は7年前まで大きな会社の重役で
奥さんも子供もいて・・
りっぱな家も車も持っていた。

一度くらいなら・・
そんなのが通用していたのはもう昔の話。

いまは・・今は一度で人生は終わるのだそうだ。
一度で骨の髄までしみこみ
けして消えることはないのだそうだ。


幻覚もあるし幻聴もある。

そういう悪い部分はそのままに
禁断症状がないため周りが気づきにくい。

そしてあいかわらず高い。

家も・・家族も 友達も もちろん親も
何もいらない 

たった一袋のために
家さえも差し出す。

自分でも驚くほどの言い訳が
湯水のように湧いてきて
金の無心をする。

やらないでいることが
肉体的に苦しいわけではないのに
買わずにはいられない。

そして どうにも金が手に入らなくなったとき
なにもかも失くした事に気づく。

禁断症状が出ないということはね。 こわいよ。
昔のように隔離するのが無意味になるんだ。
だって・・やらなくても ちっとも苦しくならないんだから。

男が言う。
強く強く やめたいと思う人はね だめなんだ・・
そういう気持ちがやりたくてたまらない気持ちに火をつけるんだ・・

今はやめよう・・って思うといいんだよ。
とにかく目の前の仕事をして
それからやるかどうか考えよう。

仕事の後・・もう一度 今はやめようって思うんだ。
夕飯を食べてからにしようって思うんだ。

そして少しづつ伸ばしていく。
今日はやめよう。
今日 一日だけ我慢しよう・・

そして明日になったら
また 今日はやめよう、今日一日だけ・・そう思うんだ。

そうして 一日一日をやり過ごしながら・・
7年たったよ。

でも 今すぐにだって 始められる。
ほんの軽いブレーキをかけているだけなんだ。
 「今はこの時だけやめよう」って・・・

「じゃあ 明日はやってるかもしれないんだね」

男はピクリと眉をあげ私を睨んだが
すぐに気弱に下を向き・・

「そういうことだ・・」
と独り言のように言う。

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上履きをはこうとしたらね
泥がつまってた。

中庭の池の底の泥だよ。
汚いよね。
だってあひるとか飼ってるんだ。
あひるのうんちとか おしっこも
混じってるよね。

でもさ 入れた奴らは その泥をとるのに
池の中に手を入れるかなんかしたんだよなって
そう思ったらなんかおかしくなっちゃってさ・・

ふでばこをあけたら鉛筆が全部折れてたなんて
毎日のことだから もう気にならないよ。
鉛筆削りもって歩いてるんだ。

一番辛いのはなにかって?

なにかなぁ・・
別にどれもなんとも思わないなぁ・・
慣れちゃったからなぁ。

あぁ・・そうだ。
妹がいるんだけどね。
今度 一年生になるんだ。
来年の春にね。

同じ学校にくるから・・
妹にみられるのは辛いかなぁ・・
Setucut_18
 

「死にたくなる?」

ぶしつけな冷たい質問に少年は
驚いたように目を丸くして・・
でもすぐに またどんよりとした光のない目でいう・・

「ならない。
 ならないけど
 もし事故とかで死んでも
 別にいいよ」
と言った。
その唇は 荒れてガサガサで血が滲んでいた。


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その夜。 そられのメモをみながら
「どれにしようかなぁ・・」と考える。

明日はミステリー・サークルの発表会だ。
ミステリー・サークルというのは
別にミステリーでもなんでもなくて

月に一回 なにか面白い話や不思議な話や
なんでもいいから一人ひとつ話をするということをしている。
もちろん何もないときは何もありませんでいいんだけど・・

前回で面白かったのは守屋さんという女性会員の話で
秘密の飲み屋に行ってきたという話しだった。
そこは夫婦交換をする人のための場所で
会員制で紹介制で・・
でも別に夫婦じゃなくてもとにかくカップルならいいんだそうだ。

赤坂の駅をおりて・・
酔っていたから場所はさだかではないが
こんなところにと思うような住宅街で
普通の一軒やで・・
でもカウンターもあるし テーブル席もあるし
カラオケもあるし・・
ちょっと家庭的なスナックみたいなところだったのだそうだ。

そこのオーナーはもちろん夫婦で
もちろんそういう趣味で
奥さんはすごくボーイッシュで
聞いたら男も女もいけるらしく
もしご要望があればお相手しますよと言ったという。

二階にあがる細い階段があって
その上はどれくらいの広さなのか・・
とにかく ダブルベッドがずらっと並んでいて
一台一台の間はレースのカーテンだけなのだそうだ・・

なにもしないでただ飲んで帰るカップルもいるし
ベッドの部屋に上がるのも自由だ。

ただし階段を上がるのに条件が二つある。
カップルで行くこと。
二階にあがったらまずシャワーを浴びて
バスタオル以外持ち込み禁止のこと。

守屋さんが誰とどうしてそこに行き
何をして 何を見てきたかは話してくれなかった。
「まあ・・社会見学みたいなものかな」
そういって 照れ笑いをしながら話を〆た。

そんなわけで私はミステリー・サークルに入ってから
毎日 ネタ探しをしている。

みんな単発が多いけど
私はだいたいシリーズものを探すことにしている。

今はだから 膵臓癌の人の話と
薬物中毒に苦しむ人の話と
いじめにあっている小学校4年生の男の子の話だ。

だいたい順番にしているが
今回はやっぱり膵臓癌だな・・
もうそろそろクライマックスだし・・

「よしっ決めた。 明日は膵臓癌だ」

・・・でも みんな私が話すとき いやな顔をしている気がする。
やっぱり人の不幸をネタにするのはよくないかなぁ・・

でも たいていの人はいい話や笑える話が多いんだし・・
一人くらい嫌われ者がいたっていいよね・・

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発表会の開催される日。
行く前に買い物をしてから行こうと
夕方早めにアパートを出ると
下で なにやら揉め事のようだ・・

この近辺に最近出没するようになった豆腐屋のおにいさんと
アパートの前の一軒家で一人暮らしをしているおばあさんだった。

このおばあさんはちょっとボケていて
とにかく被害妄想が激しく
ちょっとした会話があとでとんでもない話にされていたりするので
誰も口を利かないものだから
このところ この豆腐屋がお気に入りだ。
何も知らない豆腐屋のおにいさんは
豆腐ください・・と呼び止められれば 足を止めるし
話かけられれば 客商売だから世間話にもつきあう。

いつもおばあさんが色気たっぷりに
一方的に親しげに話しをしていたが
今日はなにやら言い争っているので 
ちょっとアパートの影にかくれて盗み聞きをした。

おばあさんが甘ったれたような声で言う・・
「豆腐を食べたらねぇ 血糖値があがっちゃったのよお」

律儀で親切な若者の豆腐屋が言う・・
「豆腐を食べたらですか!?」

「そうなのよお・・どうしたもんかしらねぇ」

「それはよくありませんねぇ・・」

「ねっ どうしたらいいかしら?」

「豆腐で血糖値があがるなんて話は聞いたことないですけど・・」

「うそだって言うの? 本当よ。
 この豆腐であがったのよ」

「じゃあ・・もうやめたほうがいいんじゃないですか?」

「買わないって言ってるんじゃないのよ だから血糖値がね」

「はい あがったんですよね 豆腐で・・だったらやめた方が・・
 血糖値あがるのよくないですよね」

「違うって言ってるでしょっ 豆腐のせいじゃないのよっ」

「えっ? だって今 豆腐を食べたらって 言いましたよね?」

「そうじゃないのよっ 血糖値が高いって話なのよ」

豆腐屋のおにいさんは唖然としている・・


私はこの先の展開がなんとなく想像できたので
もう行くことにした。

心配して欲しいんだろうな・・きっと。
でも豆腐のせいにしちゃったから話がしっちゃかめっちゃかだ・・

でも豆腐屋のおにいさんはたかだか豆腐一丁に
毎度毎度30分近くも呼び止められてんじゃ面倒だもんねぇ・・

そうだ・・今度はこの豆腐屋シリーズもネタにしよう。
これはちょっとユーモアがあっていいんじゃないかな・・

私はなんだかうれしくなって 駅までスキップして行った。


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あちこちで 

あの人の・・
その人の・・

ひとりひとりの物語は進行中だ。

私は・・この断片が見えるその瞬間が楽しい。
ぞくぞくする。

そういう私の物語も進行中で
そういう私の物語の断片も
もしかすると・・・

 どこかの
誰かの
快感を刺激しているかもしれない・・

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その76 mc vol.30 「想い・・遥か」

 第30回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。


◎「それきりだった」 で始まり・・


◎瞳の奥に、あんなに赤い血の色が見えるなんて
 で おわる・・


「想い・・遥か」 rudo著


赤色灯の赤
下半身の赤
 
青ざめていく菜織

「子どもさんはなんとか・・
 母体は・・ 出血が急で・・ 残念ですが・・ 」

それきりだった。

うそだっ うそだっ
うそだうそだっ

嘘だっ 菜織っ 菜織・・おいていくな・・・

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大切なものをなくした悲しみで手一杯なのに
僕に泣いている暇はなかった。

菜織が命とひきかえに残していった僕たちの子どもは
「先天性白皮症」という疾患を抱えていた。
髪も肌も目もなにもかもが白い あるいは透明の。
色素を持たない アルビノというのだそうだ。

これは疾患なんだろうか? 
珍しいはずなのに医者の説明は簡単だった。

「直射日光に気をつけてください・・」

菜織の両親が子どもを引き取ろうと申し出た。
あなたはまだ若い。
これからいくらでもやり直すことができる。
けれども子どもを抱えていてはそれだけでも不利なのに
手のかかるだろう子どもがいては・・

やり直すってなんですかっ
僕は菜織いがいと結婚なんてしません。


僕の両親もそれに賛成した。
そのほうがあなたのためよ。
それでもあなたの子どもには違いない
私たちの孫には違いない。
出来る援助はするから 預けるのだと思って
あちらのご両親に甘えたほうがいい・・

ほっといてくれっ
僕と菜織の子どもは僕が育てるんだ。

怒りに任せて家族の手を振り払った・・


子どもが病院にいる間に先のことを決めなければならない。

僕は毎日新生児室を覗きに行き
まっしろな天使のような子どもをガラス越しに見る。

きれいな子だと思う。

「きれいね」

いつの間にきたのかうしろにちょうど菜織と同じくらいの女性が立っていた。
ここの入院患者なのだろう花柄のパジャマを着ていた。

「育てるの大変ね」

なんだかひどく無責任な言い方に聞こえたのでむっとした。

「アルビノだからですか」

彼女は驚いたよう僕を見る。

「違うわ。 だっておかあさん亡くなってしまったんでしょう?」
最後の方は言いにくそうに声が小さくなる。

僕は気づく・・ここの入院患者なら知っていてもおかしくない。

子どもを残して死んでしまった母親のこと
その子どもが一目で普通と違うとわかること・・

「あ・・あぁすみません。 大きな声を出してしまって
 ・・そうですね 大変ですよね。 普通の子じゃないし」

申し訳なさも手伝って少し自嘲気味に言う。

「普通の子どもよ」

「えっ?」

「普通の子どもよ」 彼女はもう一度 ゆっくりと繰り返した。

なんだか新鮮な言葉だった。

ぼんやりしているうちに彼女はいつの間にかいなくなっていた。


次に彼女にあったのは翌日、屋上でだった。
毎日家に戻ると菜織の両親と僕の両親からの留守電が待っていて
同じことを何度も繰り返していた・・
「どうするつもりなの」
「強がっても一人では困るでしょう?」
「仕事はどうするの? ずっと休むわけにいかないでしょう?」

わかっている。
わかっているけれど 自分の子どものことだ
菜織の忘れ形見だ。
じゃあお願いしますですむ話じゃない。

それでも確かに仕事に行っているあいだ子どもはどうするのか? 
保育園に入れるにしても こういう子どもは受け入れてもらえるのか?
たぶんしなければならないことはたくさんあるのだろうに
何もする気になれず 日の暮れいく屋上でタバコを吸っていた。

「こんにちは・・もうこんばんは かな?」

「ああ 昨日はどうも・・」

「・・元気がないみたいですね」

「いや・・まあ・・そうですね。 
 やらなくちゃいけないこととか、調べなくちゃいけないこととか
 いろいろあるんだろうけど・・
 どこから手をつけていいのか途方にくれちゃいましてね」

「赤ちゃん・・抱いてあげてます?」

「えっ? あぁ いや あんまり・・」 彼女はいつも思いがけないことを言う・・

「まず抱いてあげないと・・見てるだけじゃなくて
 そして名前を呼んであげないと・・名前なんていうのかしら?」

「なまえ・・・?!」

そうだ名前。 
名前はたしか生後一週間くらいのあいだに届出を出すんじゃなかったか?
なにやってるんだ・・僕はすっかり忘れていた。
 
「まだ考え中?」


---名前はねぇ私の菜をとって 直弘さんの なおをとって「ななお」
 漢数字のなな 生まれるのお。
  「七生」 男の子でも女の子でもいいでしょう? どお?

「七生・・」

「ななお? 素敵ね」

「菜織が・・女房が考えたんです・・」

「じゃあ早く届けて呼んであげなきゃね」

彼女と話をしているとピリピリといらだった神経が柔らかく滑らかになる気がした。
もっと何か言って欲しかった。
一人でどうしていいかわからないことを こうしなさい ああしなさいじゃなく
問い詰められて追い詰められてじゃない。 聞いて欲しかった。
聞かれて考えて そうしたら僕は答えを出すことができる・・
思い出すことができる・・今、名前のことを思い出したように・・そう思った。

「じゃあ またね」

「まって・・まってくださいっ」

小首をかしげた彼女はなんだか菜織に似ていた。
菜織の 「なあに?」 と無言で問いかける時の顔・・

「もし あの迷惑でなければ話を聞いてもらえませんか・・
 できれば相談にのって欲しいというか・・その うまく言えないんですが」

彼女はそう言い出すとわかっていたとでもいうように
優しくほほえんで・・でも少し困った顔をした。

「いいですよ。 いいんですけど 明日でいいかしら・・
 明日のお昼が終わったくらいに・・もう薬の時間なんです」

「あ・・あぁ はい。 もちろんです。明日の昼ここにいますから
 すみません。 ありがとうございます」

「じゃあ 明日」

僕は深々と頭を下げて彼女を見送った・・

彼女は入院患者だった・・
自分のことばかりで彼女のことをちっとも考えてなかった。
・・彼女はなんで入院しているんだろう?


約束の翌日、紙パックのコーヒー牛乳とオレンジジュースをもって
僕は屋上へ向かった。
少し早めにきたはずなのに彼女はもう すみっこのベンチにすわっていた。

「すみません。 待たせてしまいましたか?」

「いい天気だから 早く来たの。 まだ約束の時間じゃないわ」

僕は恐縮しながら彼女の隣に座りもってきた紙パックを両方示した。
「よかったら・・こんなものしかなくて・・」

「ありがとう」そういって 彼女はオレンジジュースを取った。
 
菜織もきっとオレンジを選ぶだろうな・・ふと思い出す。
彼女は菜織とちっとも似ていないのになぜか菜織を思い起こさせる。
雰囲気が似ているのかな・・

それから少し世間話や天気の話をしたあと
僕は彼女に愚痴めいたことをえんえんと語った。

菜織の両親が引き取ると言っていること
僕の両親がそうしたほうがいいと言っていること
自分で育てるんだと宣言しても具体的にどうしていいのかわからないこと
名前をつけることさえ忘れていた自分の情けなさのこと

けんかに負けて悔しさをわかってもらおうと母親に訴えるこどものように
話は前後し、支離滅裂な言葉はなだれこむように彼女にむかった。

「そんなに気負わなくても普通にすればいいじゃない?
 こういうときするだろう ごく普通のことよ」

「・・普通?」 普通って何だ?
母親が死んで子どもにはよくわからない疾患があって普通ってなんだ?

「あなたのしたいことを言って、して欲しいことをお願いすればいいのよ」

「引き取ってもらえってことか・・」

「違うわ・・
 自分で育てたいのだとちゃんと伝えて
その上で足りないところを助けてくださいって
 そういえばいいのよ」

「・・・・」

「まず、そこからよ。 自分だけでって囲い込まないで
 必要な手は貸してくださいって・・
 きっとみんなあなたから取り上げようと思ってるわけじゃないと思う。
 あなたが素直に聞いてないだけなんじゃないかな」

「ねっ」 そういって彼女は僕の手に小さな折り紙のようなものを載せた。
ストローの袋を折ったものだ。

「寒くなってきたから・・もう行くわ」

手のひらに載せられた小さな短冊のようなそれには見覚えがあった。
ストローの袋をみつけると菜織もよく作っていた・・


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僕はそれから自分がどうしたいのか整理し
できることと出来ないことを考えて
まず菜織の両親に会いに行った。

「自分の手元で出来る限り育てたいんです。
 でも知らないことや出来ないこと、仕事をしながらでは困ることが
 いくらも出てくると思います。 そういうところを助けてください」

そういって頭を下げた。
菜織の両親は快諾した。
一人でなにもかもやろうとしているようなので心配したと泣いていた。
しばらく一番いい形が出来るまで
「七生」といっしょに僕も同居させてもらうことになった。

自分の両親には電話で報告した。 
心配してくれたのにつっぱねて悪かったとあやまった。
母は泣きながら、手伝えることはなんでもするといい
菜織の両親にはあらためて挨拶に行くといい
最後に「七生」に会いに行ってもいいかと聞いた。

僕は孫に会いに行くのも躊躇わせるほど
みんなを遠ざけていたのかと今更ながらに驚いた。

翌日にはさっそくやってきた菜織の両親と僕の両親と
みんなでかわるがわる七生を抱き話かける。


そんな風になにもかもがいいほうに転がりだし
丸く収まりだして退院の日。

七生のことを菜織の両親にまかせ
僕は彼女にお見舞いとお礼をしようとして
病室がどこか彼女の名前が何なのか・・
何も知らないことに気がついた。

彼女のおかげでここまできたのになんてことだ・・
僕は本当に自分勝手だ。

まず産婦人科で聞けばわかるかな・・
彼女は新生児室をよく覗いていたはずだから・・

顔なじみの看護士に彼女の髪型や顔の感じを
説明しながら尋ねる。

「うーん・・誰かなぁ。 感じ的には思い当たる人がいるけどね
 でも屋上で話をしたりしてたんでしょう? だとすると違うしね・・」

「違うんですか?」

「うん。 その人は屋上になんてとても行けないから」

なんだか体がざわざわする・・

「その人は・・どこにいるんです?」

「婦人科だけどね・・もういないのよ」

「いない? 退院したんですか?」

「・・昨晩ね・・亡くなったの」


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彼女は池谷良子さんといい
一月ほど前から産婦人科に入院していた。

交通事故で彼女は脳死状態になり
人工呼吸器で何とか生きていたが昨晩・・
風邪をこじらせて亡くなったのだという。

外科ではなく産婦人科にいたのは
事故にあったとき彼女は妊娠八ヶ月目で
子どもだけでもと帝王切開で取り出したが
結局だめだったらしい・・

彼女が池谷さんだったかどうかは顔を確認できないので
もうわからない・・
だいちそんなことはありえない。

もっとちゃんと・・たとえば池谷さんの家族に頼んで写真を見せてもらうとか
もっと他の入院患者をひとりひとりあたって探すとか
調べる方法はあるだろう・・

だけど僕は何もしなかった。

きっと僕のあっていた彼女は池谷さんだ・・
いや・・池谷さんの体をかりた菜織だったに違いない。
そう思った。

そう思いたかった・・

「直弘さん・・行きましょうか」 菜織の母親が七生を抱いて迎えに来た。

僕は七生を受けとりまっしろな天使のようなその顔を覗き込む。

七生の瞳の奥はきれいなルビーのような赤。
僕と菜織のふたりの血の色なんだと思った。

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