その78 mc vol.32 「おばあちゃんのこと」

 第32回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

いや・・なんか 時間もなくて あわてて書いたので
よくわかんないものになっちゃいました (^^;
なにが困ったって・・魚肉ソーセージが出てきちゃったりしたことでしょうか・・

いくらくらいするものかとスーパーで見てきたりしましたが・・
まだ あるんですねぇ・・
子供のころ食べた記憶がありますけど・・
でもって ちゃんと時代を反映しているというか

あれはやっぱり 小さな子に食べさせるおやつのようなものなのかしら?
ぷりきゅあ5 とかポケモンとかのやつが売ってました。



◎ドラマじゃないんですから、都合良く時計は壊れはしません。
 で始まり・・


◎魚肉ソーセージの値札なんです。
 で おわる・・


『おばあちゃんのこと』 rudo著


「ドラマじゃないんだからっ 
 そんな都合よく時計が止まるわけないでしょっ」

玄関の鍵を開けるとすぐ 大きな時計がある。
どうしてだか止まっていた。 それを見た弟が 
 「この2時40分にばあちゃんに何かが起きたんだな」
・・と言ったからだ。

「いやっ この時計はばあちゃんが大事にしてた。
 だから ばあちゃんに何かあったことを知らせてるんだっ」

時計は壁にかけてあって大きな振り子がついている。
すこし斜めになっているのまっすぐに戻すと
振り子はまた左右に揺れてコチコチと動き出した。

「ただ 曲がってただけだよ」

「おおっ 何かあったから曲がったんだなっ」

おばあちゃんは私たちの母親の母親だけど
二人はものすごく仲が悪い。

喧嘩らしい喧嘩をするわけではないが
お互いの言葉には刺々しさと嫌味が含まれていて
聞いているほうがドキドキする。

そんなだからほんの一駅・・歩いたって15分そこらの距離に
住んでいながらほとんど行き来はない。
行き来はないが・・それでもひと月に一度
おばあちゃんは私たちの家にやってくる。
毎月毎月 きっちり 15日の午後3時。
家賃の集金に来るのだ。

そう・・私たちはおばあちゃんから家を借りているのだ。
母親はそれも気に入らないのだ。
娘が住むのに金を取るなんてっ と思っているのだ。
さらに言えば他人に貸すのと同じだけ取るのも気に入らないのだ。

「あのばあさんは 娘が憎いのさ」 そんな感じだろうと思う。

だからおばあちゃんがいなくなったって
本当なら気づきもしないのだが
必ず来るはずの5月15日。
15日だというのに おばあちゃんは来なかったのだ。

今までだって来なかった日はある。
病気になったり 
雨がざあざあふってたり
そんな時だ。

そんな時はでも 必ずきっかり来る予定の時間 午後3時に電話をかけてくる。
そして 今すぐ振り込めとか 持って来いとか しばらくだだをこねるらしい。
母親は「明日来ればいいでしょっ」 最後にはそう言って
力任せに受話器をたたきつけるのだ。

たまたま来る時にいなかったりしたら大変だ
おばあちゃんは玄関の前に座り込んで待っている。
いつまでもいつまでも待っていて
戻ってきたとたんに大声で 
「家賃を払えっ 払えないのかっ お前の亭主はそんなに貧乏なのかっ」
そんなふうに言うものだから みっともなくて留守にも出来ない。

たまたま休日に重なってみんなで泊りがけで出かけた時は
帰ってきたら玄関に 金払えっ と大きな紙が貼ってあった。
いまどきサラ金の取立てだってそんなことしない。

だから こない。 電話もない。
それはただごとではない。
16日の日には母親は 弟に見て来いと命令した。

帰ってきた弟が言う。
「いない」

「いないってなによ?」

「だから 留守みたい」

「本当に?」
「本当に本当に留守だった?」

たたみかけるように聞くので弟は自信をなくし黙り込む。

17日になっても 18日になっても
おばあちゃんは来ないし電話もない。

それで もしや死んでるんじゃないかと思い
今度は私も一緒に行って 中も見て来いと鍵を持たされたのだ。

そして まず玄関の時計が止まっていた。
茶の間にはテーブルの上に朝ごはんだか昼ごはんだかの後がそのままだ。
その奥の和室にはとりこんだだけの洗濯物が放り出してあった。
洗濯ばさみがついたままのもいくつかある。

「おばあちゃんらしくないね」

「なにが?」

「おばあちゃんはこんな風に出しっぱなしにしたり
 あとかたづけしないなんて嫌いじゃん」

「そうだっけ?」

「あんた なんにも見てないのねぇ」

弟はちょっとふてくされて言う。
「じゃあ ねーちゃん ばあちゃんの冷蔵庫の横見たことあるか?」

「??冷蔵庫の横? なにそれ?」

「ふふん 知らないだろう?」

弟は勝ち誇ったような顔をして私を冷蔵庫の横に引っ張っていく。

・・・

「な・・に? これ?」

冷蔵庫の横一面は白い小さなラベルでいっぱいだ。

「ばあちゃんの趣味だ」

「趣味? 冷蔵庫に貼る事が?」

「冷蔵庫じゃなくてもいいだろうけど
 このラベルをとっとくことがさ」

「おばあちゃんがそう言ったの?」

「言わないけど 集めてるんだから趣味だろう?」

ラベルには数字が打ってあるけど
みんながみんな同じ数字でもない。

63 とか 298 とか 132とか・・
でも298が一番多いかな・・

「これは・・なにかいなくなったことに関係あるのかな・・」

「ないよ」

「なんでよ? そんなことわかんないでしょう?」

「わかるよ。 趣味だもの。 関係ないよ」

そんなことを言い合っていてもしかたないので
とりあえず出しっぱなしの食器を流しに運び
洗濯物は・・洗濯ばさみだけはずして隅によせていったん帰ることにした。

洗濯物をたたまなかったのは
ひとそれぞれたたみ方が違ったりするし
下着とかもあるだろうから触られたくないんじゃないかと思ったからだ。

母親はそういうことを気にしないんだよね。
そんな細かなところからして気が合わないんだろうな。

「・・帰ろうか・・」

「おかあさん 警察に言うかな」

「・・・さあ」

このあと捜索願を出すとか
もう少し待ってみるとか
そういうことは大人の考えることだ。
とにかくこの家の中を見る限り
なんだか急いで出かけたのかもしれないが
特に事件があったようには見えないから。

戸を閉めて鍵をかけて・・
うしろで急に声がした。

「あんたたち。 何やってんのっ」

「ひゃああっ」

「あーっ おばあちゃんっ どこ行ってたんだよ
 15日に来ないから心配だから見て来いっておかあさんが」

「ふーん? 心配だと? どうだかね」

おばあちゃんはさっさと鍵を開けると
中に入り 「あんたたちもお茶飲んで行きなよ。 おみやげあるから」
・・と手招きした。

「おや? 食器をさげてくれたんだね?」

「うん。 でも洗ってないよ」

「いいのいいの。 人に洗ってもらっても
 結局また もう一度洗っちゃうんだから」

「洗濯物も・・洗濯ばさみはずしただけ」

「うんうん。 あんたはちゃんとわかってる」

おばあちゃんはお湯を沸かしほうじ茶を入れてくれた。

おばあちゃんの家のお茶はいい香りがしておいしい。
弟はお茶なんてふだん飲まないが
おばあちゃんの家のは飲む。

「おばあちゃん どこ行ってたの?
 15日なのに電話もしてこなかったし・・」

「昔のね。 友達に会いに行ってきたんだよ」

「どこに?」

「京都。 ほらだからおみやげは八橋だよ」

「京都に友達がいたの?」

「死んじゃってね・・ 友達。
 京都の人と結婚したからお墓が京都なのよ」

「お墓参りに行ってきたの?」

「まあ それもあるけど。
 その友達のご主人とも仲良くしてたからね
  会っておこうと思ってさ」

「なんでまた 急に・・」

「でも もう亡くなってたわ」

「・・・えっ?」

「テレビで高野山の特集をやってたんだよ。
 お墓ね 高野山なの。 ご主人が高野山の坊さんの親戚とからしくてさ
 遅かったねぇ。 急に思い立って出かけたけどねぇ」

「あんたたちにはまだ関係ないかもしれないけど・・
 歳とったらさ。 友達には会おうと思ったとき
 会っといたほうがいいよ」

「ほんとにさ。 いつ死ぬかわかんないんだから・・
 ・・まあ そんなこといったら 歳は関係ないか 
 事故なんてこともあるしね」


「うん・・」

そんな話をしている間に弟は
がぶがぶとお茶を飲み 八橋を一人でほとんど食べちゃっていた。

「なによっあんた 私まだ 一個しか食べてないのにっ」

「いいよいいよ。 まだあるから。
 いっぱい買ってきたから」

おばあちゃんはそのあとも
しばらく亡くなってしまった友達とそのだんなさんの話をしていたが
断片ばかりで時間軸も行ったりきたりで
なんだかよくわからなかった。

ただ おばあちゃんはものすごく後悔してるようだった。
会おう会おう 会いたい・・と願いつつ
今度 この次 と延ばしている間に
もう二度と会えなくなってしまったことを・・

「彼女・・八橋が好きでねぇ・・
 だからさ いっぱいお墓の前に置いてきたんだ。
 それでさ 私もいっぱい買ってきたのさ」

「ふーん・・」

 
帰り際、玄関先でおばあちゃんが言う・・
「じゃ 明日 集金に行くから・・
 そう言っといて。 京都に行ってたことは内緒ね」

「うん わかった」

「あ・・そうだ。 おばあちゃん
 あの冷蔵庫の横のラベル・・あれなに?」

おばあちゃんは 何のことかと一瞬不思議そうな顔をして
「ああ あれか・・」と言って くっくっと笑った。

「あれはね。 別になんでもないんだけどさ。
 魚肉ソーセージの値札だよ」

「魚肉ソーセージ?」

「そう。 私ね 魚肉ソーセージが好きなの」

「知らなかった・・」

「でね いつも一本とか 5本の束になったやつとか買うんだけどさ
 冷蔵庫にしまう前にねラベルはがして貼ってるの」

「どうして? 」

「・・どうしてだろうねぇ・・それは わかんないけどね。
 子供のときからの癖みたいなもんかね」

「そうなん・・だ」

「そうだ。 あんたさ。
 おばあちゃん死んだら お供えは花なんかじゃなくて
 魚肉ソーセージにしておくれよ」

「・・へんなの」

「それでさ。 墓石に値札貼ってよ。
 魚肉ソーセージのさ・・ねっ?」

おばあちゃんは うんうんと うなづいて
「それはいい考えだ」 とかなんとか
ぶつぶついいながら 家の中に戻って行った。


| | Comments (0) | TrackBack (0)

その75 mc vol.29 「蛇」

 第29回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

今回はバトル・ロイヤルルール とかいうそうで

みんなで同じ課題をこなします。

始まりの文 作中に入れなければならない文 終わりの文

このルールに参加するのは初めて・・
難しいです(x_x;)

このルールの良さは・・「みんな同じことをしているんだ」
だからがんばろう・・と思えたこと。

このルールの辛かった所は・・「みんな同じ」だからこその
なんてゆうか・・自分が見えちゃう恐さがあったこと・・かな。

毎度同じようなことばかり言っちゃうんですが 力作ぞろい(@@;

まずは・・毎度のrudoが気になったものをご紹介。

「さよならフィフティ・ナイナーズ」 松永 夏馬 さん・・
主人公が女友達に彼を取られちゃった。。
だけど がまんしちゃう・・というか
取り乱すのはみっともないとかかっこ悪いとか
見栄というかプライドというか・・うまく言えないな。
なんとか正気を保っちゃうんだよね。
怒りたい時に怒ればいいのに 泣きたい時に泣けばいいのに
主人公もわかっているんだけど出来ないの。
それはなかなか知り合いの中で出すのはむつかしい・・
でも怒っているし悲しいし・・もうあふれそうになっていて
たぶん息をするのも意識しないと出来ないほどだったのじゃないかと思う。
そういう正気の狂気(?)を開放してくれるのは生活圏外の人しかないんだよね。
ないんだよね・・なんていいきっちゃって(^-^; 私はそう思う。
そんな感じで まあ・・えーと この主人公を開放してくれた男の人がいい味出してます♪
助演男優賞。


「散ると恋 」 空蝉八尋 さん・・・
うーん。おもしろかったぁ♪
こどもはこども・・と思ってるとガンと一発くらっちゃうかも。。
・・でも ここまでではなくてもきっとこれに近い世界なんだろうなぁ・・と
感心した。 ちょっと古いけど・・いやかなり古いけど・・さらに
なんかピントずれてるけど ジョディ・フォスターの「ダウンタウン物語」を
思い出したのでした♪


「絵本 ~the children books~」 真紅 さん・・・
絵本っていうからさ・・ほのぼのかな・・と思ったんだけど・・少しづつ狂気をはらんでしまった家族の話・・
と私には思えたのでした。この主人公は被害者のようでありながりやっぱり
自分がかわいい加害者で、それをあまり自覚していないんじゃないかというところが
ちょっとこわい。上品なホラーだなと思ったんだけど・・
著者の意図は違うかもしれない・・ごめんなさい。


「サイレン」 櫻朔夜 さん・・・
切なくて優しくてとても素敵な恋の話・・
今回の中で一番好きかも。すれ違って考えすぎてちょっとづつ狂っていく関係ってあるよね。
修復しようとする方法もなんとなくずれちゃってたり・・
最後の台詞で悶絶した♪ すばらしい♪

というわけで 今回のrudoの作品は・・えへへ♪
「イチオシ」 もらっちゃった♪
ばんざーい!ヽ(▽ ̄ )乂(  ̄▽)ノ ばんざーい!
・・・と甘んじてはいけない。
今回は題材に助けられた感が強い。

というのも とても書きたいと思ったものをみつけたのに
頭の中にはあっても 思うように書けないまま中途半端にしてしまったと
自分でくやしかったので・・。
思うようにかけないのは毎度の事ですが・・(ーー;)

でも感激しちゃいました。 管理人さんたち・・
とても伝わらないと思ったものを丁寧に拾って
読んでもらえたらしく私が書きたかったことをわかってもらえた
みたいだったから・・ありがとうございます。


本当は大幅に加筆修正をしてアップしたいところですが・・
どうもそういうことをしようと思うだけでしない不精ものrudoです。

なので MCのまま転載。


「 蛇 」 rudo著

10090658_208791359

「人が変わっていくのは救いであって
自分が変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたい」


なにそれ・・誰が言ったんだっけ。
無理やりつれていかれた自己啓発の講義の中だったか
変な宗教かぶれの客が言ったんだったか・・


私はいやだ。
私はいまのままでいい。
自分が変わってしまう世界なんて それこそごめんこうむりたい。


誰が死のうが生きようが
そんなことは知ったこっちゃない。
それが私だ。
 

いままでも・・・これからも。


-----------------------------------------------------


激しい喉の渇きで目が覚めた。

「ちょっと 飲みすぎたかも・・」

のろのろと起き上がりふすまをあけたとたん
二日酔いも吹っ飛ぶほど腹が立った。

リビングに使用している台所続きの8畳間には
食べ残したポテトチップのかすがあちこちに飛び散り
ファッション誌やら 女性週刊誌やら まんがやらが
開きっぱなしのまま何冊も放り出してあった。

だからフィリピーナはいやなんだ。
むかむかしながら冷蔵庫をあける。

水がない。 ミネラルウォーターのペットボトル・・
ペットボトルは部屋の中にそのまま転がっていた。

「リリイ!!」 「リリイ いるんでしょっ」
乱暴に閉まっている方のふすまを開ける。

リリイは引きっぱなしの布団の上で寝そべって
足をぶらぶらさせながらお菓子を食べていた。

「オハヨ アキラちゃん オキルノオソイネ もうヒルよ」

「おはようじゃないよっ なんなの? この散らかりようは
 どうして片付けないの? なんでごみを捨てない?
 水も残ったならどうして冷蔵庫に入れておかないのよ?」

「アキラちゃん もスコシ ユックリシャベラないと ワカラナイヨ」

「いいからっ 片付けてよっ はやくっ」
食べているお菓子の袋をひったくる。

しぶしぶ部屋からでてきたリリイは雑誌をまとめて積み上げ
部屋の隅におしやり 空っぽのお菓子の袋をゴミ箱に突っ込むと
いたるところに落ちている お菓子のカスや粉を足で蹴散らした。

見ているだけで腹が立つ。

「なんなの? それは 片付けるっていうのはねっこうやんのよっ」

けっきょく アキラが全部片付け、掃除機をかけた。
なんだか納得がいかないが部屋の中が
すっきりと元に戻ると気持ちも少し穏やかになる。

「アキラちゃん ソウジ ジョウズね」
さっきまでなら 蹴り倒しているところだが
今なら睨み付けるくらいで許す。

だいたいフィリピーナってやつはだらしがない。
さらに言えば衛生観念もかなり怪しいと思う。

湯船の中で平気で下着を洗濯するのを見た時は鳥肌がたった。
やめてくれと怒ると なにをそんなに興奮しているのかわからないと言った顔で
「シタギ1マイにセンタクキなんて モタナイよお」 と言った。
日本人は細かい・・とぶつぶつ言いながら裸のまま部屋を歩き回り
今、洗った問題の下着を窓ガラスにくっつけた。

「リ・・リイ・・それは・・・なんなの?」

「ナニて? ホシテルヨ」

「そこは窓ガラスだよ?」

「カワクトオチルよ。 オチタラもうはいてもヘイキね。 カワイテルよ」

こういうことって・・フィリピーナの特性なんだろうか?
それともリリイ個人のものなんだろうか?

「ネエネエ アキラちゃん チョトだけソトイカナイ?」

リリイが甘ったるい匂いをさせながら近寄ってきた。
こいつはいつも 安っぽい匂いのガムを噛んでいる。

だめに決まってるだろう・・私は返事もしなかった。
だけどリリイはそんなこと少しも気にしない。

「アキラちゃん。 キノウね イバさんきたよ リリイ オカネもらたよ」

「伊庭さん来たの? いつ? なんだって?」

「アキラチャンが シゴトいって スグよ」
「ホントにオレのコかとか ホカにツキアテルヤツ イナイカ とかよ」

あーあ・・

「シツレイヨ デモ オコヅカイくれたからね ユルスヨ」

能天気な奴。最後の確認をされたんだよ・・

「ダカラネ アイスクリームタベイコウヨ ゴチソするよ」

「えっ?」 驚いた。
私は時々こんな風にフィリピーナを預かってきたけれど
部屋を提供している私に感謝を表した奴はひとりもいなかった。

いつもなら無視するところだが伊庭さんが来たのなら
もうあまり時間は残されてない。

「・・・わかった、行くよ。 でも私と一緒の時にはそのガム噛まないでよ。 
くさい」
リリイはちろっと舌を出して悪びれた風もなく
「ワカタヨ」 と言った。

-----------------------------------------------------


伊庭さんというのはフィリピンパブの経営者で
アキラのいるスナックの常連客だ。

一週間ばかり前 伊庭さんはリリイを連れて飲みに来た。
アキラが席に着いたとたんすぐに
「アキラ しばらくリリイを預かってくれ」

「いやだ。 私フィリピーナ だいっ嫌いだから」

「アキラー。 いきなりそれはないでしょう?
 どうしたのくらい聞いてくれよ」

「じゃ どうしたの?」

「あっちょっと待って」
そう言って伊庭さんはママを呼び何か食べさせてカラオケでも
やらせておいてとリリイをあずけた。

「あいつさ 子どもが出来たっていうんだよ」

「誰の?」

「俺の子・・・らしいよ・・本人は とにかくそうだって言ってる」

「伊庭さんが孕ませるとはまた 珍しいこともあるもんですね」
・・バカなフィリピーナ・・話をあわせながらちょっと同情した。

「まあ 寝るのには寝たんだけどね」

陽気に変なアクセントで歌うリリイの細い腰をみる。

「本当にできてるの?」

「さあね。もうどっちでもいいよ
 ちょうど打診が来てたところなんだ」

「打診があったならあずからなくてもいいんじゃないの?」

「普通はね。すぐ送っちゃうけどね。
 ただ今回はいくつか問題がある。 健の店のピナなんだ」

「健ちゃんの店の子に手を出したの?」

「知らなかったんだよ。 寝た後で聞いたらそうだったのっ」

「うちの店にスカウトしてもいいと思ってたけどね・・
 あんなこと言い出すようじゃね。 オレ怒っちゃうよね」

健ちゃんの店と伊庭さんの店はフィリピンパブ同士だが
仲良く共存していて困った時は女の子をトレードすることもある。
そして健ちゃんも伊庭さんも裏の顔を持っている。

ただ健ちゃんの店は「お春さん」をやらせる。 いわゆる売春だ。
裏は裏でも周知の裏だ。

伊庭さんはそういうことはしない。
どちらかと言えば店の外で客に会うことを嫌う。
だけどみんな伊庭さんのお手つきだ。
伊庭さんはまず入店前に自分で味見をする。
そして伊庭さんの裏は・・

「健ちゃん・・知ってるの?」

「なんとなく・・ね・・健とはさ その件に関しては対立してるから・・
 この先も分かり合えることはないだろうな」

「もう決まったんだね」

「たださ。もしかして健の店の客が相手かもしれないでしょ?
 それはそれで金になるし・・
 客じゃなくて誰か付き合ってる奴がいたら面倒だからね
 ちょっと調べる間 隔離したいんだよね」

「できれば うまくその辺も聞き出してくれると
 預ける期間が短くなるよ?」

「わかった。あずかるのはいいよ。
 でも そっちのほうは約束できない」

「なんでよ」

「フィリピーナ嫌いだから 口利きたくないもん」

「ふん。まあ いいや。どっちでも」

そう言って伊庭さんはタバコに手を伸ばし
「オレ・・嘘つかれるのって許せないんだよね」 と言った。

アキラのつけた火に顔を近づける伊庭さんの目は
へびのように ただ黒くなんの光も放たない。

その夜からリリイはアキラの家に来ることになったが
荷物は紙袋がひとつとぺらぺらのピンクのポーチひとつだった。

使っていない四畳半を示してアキラはリリイに宣言した。

私がいない時はなるべくここにいること。
そっちの六畳は私の寝室だから絶対に開けないこと。
朝は私が起きてくるまでなにがっあっても起こさないこと。
部屋の電話には絶対に出ないこと。
ここにいる間は誰とも連絡をとらないこと。

リリイは神妙な顔をして「ワカタ」 と言った。

「アキラちゃんホントはなんていうの?」

「なにが?」

「アキラはオミセのナマエでしょう
 オトモダチは ホントのナマエをオシエアウよ」

「私はあんたと友達になる気はないっ
 だから教えない、どうしてかっていうとね。
 フィリピーナがだぁーいっ嫌いだからっ」

リリイはちろっと舌を出して 「ワカタ」 と言った。

-----------------------------------------------------


「ハヤクハヤク アキラちゃん」

あずかりものを外に連れ出すのは初めてのことだ。
今回の私はちょっとおかしい。
普通あずかるといっても 一日か二日か・・
リリイとはちょっと長すぎたのかもしれない。

駅前の大型スーパーに入っているアイスクリーム屋。

「アキラちゃん ドレいい? ドレでもいいよ」

「チョコチップとマロンクリームとラズベリーのトリプル」

リリイがポーチを握り締めて唖然としている。

「嘘だよ。 チョコチップ。 カップで」

「ナンデ イイヨイイヨ ワタシ ドレでもいいって イッタよ」

「本当にいいよ。 そんなに食べれないから」
そう言っているのに リリイはもう注文している。

三段重ねのアイスクリームを二つ持って
ニコニコと寄ってくるリリイを見ていてなんだか
不思議な気持ちになった。

怒られても文句を言われても どこ吹く風。
おおらかで 細かいことを気にしなくて
だけどお金にシビアでしたたかで・・・

「オイシソね。 ワタシもトリプルにシタヨ」
手渡された今にも倒れそうなアイスをもてあまし気味になめながら
私はこの娘を助けてあげたいとおもった。

「リリイ 妊娠したって嘘でしょう?」

嬉しそうにアイスをあちこちの方向からなめていたリリイが
固まった。

「リリイ 伊庭さんはね 嘘がすごく嫌いなんだよ」

「ウソジャナイヨ。 イバさんのコ。 マチガイない」

「・・・イバさんのコよ」

「伊庭さんは・・子ども作れないんだよ・・」

リリイの目が泳ぐ。
「・・ジャ オキャクさんのコかも・・」

「リリイ 逃がしてあげるよ」

「ニガスて? なんで?」

「・・殺されちゃうよ」

「・・・・・」

「昨日伊庭さんが来たなら 早ければ今晩・・」

「よくワカラナイよ」

「生きていたい?」

「アタリマエヨ フィリピンにカゾクいるよ ワタシのおカネ マテルよ」

「じゃあ よく聞いて。私の言うとおりにして? いい?」

-----------------------------------------------------

いつもより長く感じる時間。
まだ8時、まだ10時・・

リリイはちゃんと言ったとおりにしただろうか・・
いつもの調子で「ワカタ」 そう言ったけど
どこまで真剣なのかがよくわからない。

どうか うまくいきますように・・・

きっと今晩ってことはないと思う。
私のいないときには連れて行かないと思う。
今までそんなことは一度もなかった。
きっと明日の朝だ。
だから 私が店に出ている間に出て行かせて
部屋にもどったらリリイがいなくなったと伊庭さんに連絡する。

伊庭さんはきっとあちこち探すだろうけど
大丈夫 見つからない。
リリイを匿ってもらう場所は私の古い友達だ。
伊庭さんには私が裏切ったなんてわからない。

大丈夫・・大丈夫・・
そればかり念じているうちに何が大丈夫なのかも
わからなくなった。

午前2時 家に戻る。 電気はついていない。
「よかった・・間に合ったんだ・・」

玄関をあけたとたん 切ないあえぎ声が聞こえた・・
私は固まったまま動けなくなった。
しばらくしてふすまを開けたのは伊庭さんだ。

リリイ・・どうして。
私は立っていられないほど震えていた。

伊庭さんが近づいてくる・・蛇のような目をして。
逸らしたくてもそれを許さない蛇の目。

「・・アキラ。 フィリピーナは嫌いじゃなかったのか?」

「・・・」

「隆一が見てたんだ。 仲良くアイスクリーム食べてたって?」

隆一・・隆一は伊庭さんの店のバーテンだ。
「ご・・ごめんな・・さ・・」

いきなり胸倉をつかまれた。 
「あやまるなっ 最初からあやまるようなことをするなっ」

上気した顔のリリイが顔を覗かせた。
「ドシタノ? アッ アキラちゃんカエテキタ?」

伊庭さんはリリイに向かってことさら優しげに声をかける。
「じゃあ 車で待ってるから支度ができたらおいで」

そして私に向き直り言った・・
「アキラ 今回は許してやる。 次はいくらお前でも
 牧場送りだ・・・」

ドアが閉まる音と同時に私はそのままへたり込んだ。

リリイが心配そうにかけよってくる
「アキラちゃんドシタノ? グアイワルイノ?」
大きな目・・まず目を取られる。角膜・・

「リリイ どうして行かなかったの?」
それから・・順番に・・腎臓も肺もすい臓も小腸も肝臓も・・

「イコウトしたら イバさんキタヨ。 
 でも アキラちゃんのカンチガイヨ。 イバさんオレのコならケッコンするって」
東南アジアのどこか・・

「でもアキラちゃんのイウトオリ ニンシン ウソ。  
 ワタシ ちゃんとイッテ アヤマタよ。 ユルシテクレタ これからツクレバ
 イイよって」
死ぬまでそこから出られない。

とろけそうなリリイ・・

「アシタ イッショにフィリピン カエルよ」
家族がいるっていってたね・・リリイ。

「キュー デショ でも ドシテも モイッカイ アキラちゃんにアイタカタの
 イバサンもソウシナサイて」

「そうなんだ・・・」
「アヤマロとオモタよ イウトオリシナカッタ から」

「うん、もういいよ」 

「・・・アキラちゃん ナイテル? ワラテるけど ナイテルよ ヘンよ」

そういってリリイも笑う。

「アキラちゃん もうイクよ イバさん マテルから」

「・・・リリイ アイスありがとう。 ごちそうさま」
「アキラちゃんジャア・・」
玄関を出ようとしてリリイが振り向く。

「バイバイ リリイ」
永遠に・・バイバイ。

「アキラちゃん ホントはナマエなんてゆうの?」

私は背中を向けたまま返事をする。
「教えないよ。 友達じゃないから・・前もそう言ったでしょう」

「くすくすくす・・アキラちゃんラシね。 バイバイ」
バタン・・と永遠のドアが閉まる。

・・ばいばい。

言葉はいつだって乱暴に どちらかに分ける。
途中の気持の動きも・・
そこにいたる経過も無視して・・

結果だけをつきつける。

yesか noか・・
好きか 嫌いか・・

友達か 友達じゃないか・・


リリイは友達じゃない。
助けられなかったあの娘は・・

友達じゃない。

| | Comments (1) | TrackBack (1)

その73 mc vol.27 「always I think of....」

 第27回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

こりずに参加しています(;´▽`A``
今回の「お題」は わたくしrudoが
出させていただきました。

自分で出しておいて 自爆・・


今回は自分の出したお題を
みなさんがどんな風に展開してくれるのか?
という別の楽しみがあったので
いつもより((o(*^^*)o))わくわくしました。

その中でrudoが 気になった作品を
ここで紹介いたします。


「Desire」 Monica さん・・
自分しか愛せない女性の哀しさを感じました。
居場所がないと感じながら育つと
なかなか人を愛せないんだろうなぁ・・と。
まず自分が愛されたいと熱望してしまうから。

なんてことを思いながらせつなく読みました。


「欺いた仮面」 かしのきタール さん・・・
こんなん書いちゃってぇ・・

お母さんたちの係わり合いが生々しいです。
妙子さんが悲しいです。 こういう孤独感は精神にくるので
こわいです。 絶妙のところで終わっていますが・・
その後が知りたいと思ってしまうのでした。


「Time is ....」 櫻朔夜 さん・・・
しょっぱなからのめり込み。
からからと乾いた語りが重いぞ重いぞと感じさせます。
この主人公が思い残すことなく最後の仕事を終えたことに
救いを感じてしまいつつ、この主人公の手にかかった13人の
被害者の事情までいろいろ想像しちゃったりして
この書き手さんはそんなこと望んでいないだろうと
思うのですがついついあれこれ考えちゃう奥の深い話だと思いました。


「夜という海」 国見弥一 さん・・・
言葉のつむぎ方がすてきで
没頭して読ました・・ラストで「あっ? なんだ? あはははははは・・・」
と笑ってしまいましたが笑いは はぁ~・・・ためいき・・そして沈黙。
おかしくて、寂しくて、哀しくて・・・そんな話でした。

実は・・・Clown さんに割り当てられていたお題が
私は一番気にかかっていたのですが・・残念。
今回はpassみたいです・・

・・ではrudoの提出分です。
これを書くにあたり ずーっとBGMは
Daniel Powter - Bad Day でした。
歌詞と内容はまったく関係ありません。
もしよかったら 聞きながら読んでみてください。

さんざんかけていたので 家の人たちは
この曲が大嫌いになったようです。
ちょっとでも かけると 歯をむいて怒ります(x_x;)

こちらから 聞けます。

Bad Day


◎「きれい、くるくるウズができるね」 で始まり・・

◎「ゆらゆらと揺れる炎の世界へと入っていった」 
 で おわる・・

「 always I think of ... 」 rudo著


私は もうどこにも心を寄せたりしない。


M0a



西日がまぶしくてよく見えない。
テレビの画面に窓の外が映りこむ。

私はシュンに抱かれながら
テレビを見ていた。

シュン。見て、きれい。
くるくるウズができるよ・・・

リキッドタイプのミルクのCM。

コーヒーに上からミルクを垂らす。
ミルクの白は
内側から外へと 渦をまく。


私とシュンのsexは
ご飯を食べたり
歯をみがいたり
本を読んだり

そんな風なことと同じ場所にある。
いつも 平常心のまま始まって
平常心のまま終わる。

声も立てず・・吐息ももらさず
普通におじやべりをしながら
いつまでも ただ
つながっているだけだったりする。

それは私がなるべく気持ちを平らかに
しようとしているせいだ。

不感症なわけではない。
体はちゃんと反応する。

だけど触れても触れられても
膜を通したように遠く
心にとどかない。

とどかないようにしている。



「コーヒー飲みたくなっちゃったな。
 ちょっと飲んでから 続きにしない?」

うん。いいよ。

私は裸のまま お湯を沸かしに行く。

シュンはコーヒーメーカーや
サイフォンで淹れるコーヒーより
インスタントコーヒーが好きだ。

ちゃんとしたの淹れようか?
私 豆を挽くのうまいのよ。
そういったこともあるけれど

「そんな洒落た育ちじゃないんだ」
そう言って 笑う。

インスタントコーヒーをカップに入れて持っていく。

シュンはカップを受け取り
一口飲むと 私を膝にのせ
ゆっくりと中に入ってくる・・・

「あれは・・・しょうゆだよ」

しょうゆ? なにが?

「ミルクが きれいに渦をまくのは
 コーヒーじゃなくて しょうゆだからなんだ」

あぁ・・さっきの話か・・と納得する。

シュンはそういう人だ。

何か話していて
その時 答えが返ってこなくても
しばらくして・・
あるいは ずいぶんたって・・

もう忘れた頃に
唐突に返事がかえってきたりする。



「りょうこ。俺・・・働くよ」

今だって、働いているじゃない。

「そうじゃなくて、ちゃんとどこか就職してさ」

・・・

「もちろん墨も消すよ」

・・・

「だからさ。 俺たちも ちゃんとしない?」

私のことなんて 何も知らないくせに・・・


「必要なことは知ってるさ。
 りょうこは何を知ってほしいの?」

私はシュンのこと好きじゃない。

そっぽを向いてそう答える。
シュンは少し傷ついた顔をして
でもちっとも気にしない風に
私を抱きしめる。

「嘘だよ。りょうこ。
 じゃあ どうしてここにいるんだよ」

「かんのん」がいるからよ。
「かんのん」に抱かれていたいからよ。
最初にそう言ったじゃない。


「うん、いいよ。
 それでもいいよ。りょうこ」


シュンは 今度は上になり
浅く 深く
はやく ゆっくり 動く。
そして 耳元でいつまでも
 「りょうこ りょうこ・・・」 とささやき続ける。



------------------------------------------------------------

「かんのん」

観音。


シュンは左肩から肘にかけて精緻に
彫られた観音を持っている。

「多羅尊観音」(たらそんかんのん)というのだとシュンは言った。
救済者なのだとも・・・


日本ではあまり知られていなくて
だから決まった姿はないのだそうだ。

シュンの観音は 三日月の上に立ち。
小さな炎を手にしていた。

三日月はうっすらと黄色く
お湯に浸かったり
汗をかいたりすると
色鮮やかに浮き上がる。



シュンと初めて会ったのは去年の秋祭りだ。

賑やかな音に誘われて
覗きにいってはみたけれど

家族づれや 子供たちの笑い声は
かえって私に「誰もいない」という事実をつきつけた。

あまりの孤独にしゃがみ込んだ目の前に
シュンが金魚すくいの店を出していた。

そして「かんのん」を見た。

私は観音に触れてみたいと思い。
観音の彫られた腕に抱かれたいと願った。

「その観音像の腕で私を抱いてくれませんか?」

私はシュンにそう頼んだのだった。


Man02



----------------------------------------------------


夢を見ていた。

「かんのん」
小さな炎を手のした「かんのん」

炎はくらりと揺れて
「かんのん」に不思議な陰影をつける。

そして私に向かって 手をさしのべる。

私はその手にすがろうと
手を伸ばす・・・

ギュッと握られて目が覚めた。

私の手をとっているのは
シュンの暖かな手だった。


「りょうこ。仕事に行って来る」

そんな 時間?

「うん。3時過ぎた」

シュンは今、二つ先の駅にある神社の
秋祭りに出店している。

また・・金魚?

「いや、たこ焼き。
 夕飯はたこ焼きにしようぜ」

青ノリとカツオ節はかけないでね。

「何だよ それ。
 そんなの たこ焼きじゃねえよ」

シュンは苦笑しながらドアを開け
振り向いて 早口に言う。

「あのさ、さっきの話だけどさ・・
 ちゃんと考えてみてくれないかな」

私はシュンのことを特に好きなわけじゃないの。


「観音像が気に入っているならこのままで
 なんとかするよ。ずーっと長袖で通せばいいんだし」



私は誰も好きにならないのよ。



背中を向けたまま答える。

怒ってよ シュン。
怒って嫌いだって言ってよ。
そう念じる。

だけどシュンは怒らない。



「時間ないから・・行くけど
 帰ってきたらもう少しちゃんと話そう」



シュンはそう言ってドアを閉めた。

-------------------------------------------


途方にくれた。

私はもう誰かを大切に想ったり
誰かを特別な位置においたり
そういうことをしたくなかった。


私が大切だと思う人・・・
私が失くしたくないと願うもの・・・
みんな どこかにいってしまうから。


まだ学生のころに両親をなくし

そのあと世話を引き受けてくれた
伯母をなくし・・・ 

結婚して二年もたたずに
夫をなくし・・・

その時 おなかにいた子も
流れてしまった時

あまりの事に 騙されるのを覚悟で
占い師に視てもらった事がある

私の情念は強く。激しく。
気持ちを傾けると相手を
呑みこんでしまうのだと言われた。

嘘だとか本当だとかは
もう どうでもよかった。

こんな悲しみを味わいたくない・・・
その為だけに私はこの先ずっと
どこにも 何にも 心を寄せたりしない。
そう決めた。

決めたのに・・
いつのまにかシュンは
私の大事な人になっていた。


極力考えないようにしているだけで
ずっとシュンといっしょにいたいと
思っていたのは私の方かもしれない。


そう認める事は怖かった。
認めたとたんにまた
私はシュンを失ってしまうんじゃないかと
今までがそうだったように・・・


シュンには「かんのん」がついているから
大丈夫かもしれない・・
自分の都合のいいように
そんな愚にもつかない事を思ってみる。

観音様ってそういうものだよね?

苦しむ人の声を聞き
救ってくれるんじゃなかったっけ?


帰ってきたら 話してみようかな・・
私のこと 私の思っていること

私もシュンが好きだっていうこと。
シュンに・・シュンとシュンの「かんのん」に。

そう思うとなんだか
少し 気持ちが明るくなった。

どこから どんな風に話そうかと
考えているうちにもう9時だ。

9時にはお祭りが終わる。

10時にはかた付けも済んで
みんなでちょっと 一杯飲んで・・・

たいてい 11時には 
「りょうこ。たこやき」だったり
「りょうこ。 金魚」だったり

「りょうこ。やきそば」だったり・・

そんな風に言いながら帰ってくる。


今日はたこ焼きだって言ってたから・・
たこ焼きだけじゃさみしいから
サラダでも作っとこうかな。

たこ焼きは たこ焼きだけかなぁ。

 
だけどシュンは12時を過ぎても帰ってこなかった。



--------------------------------------------------


お祭りの後のささいな喧嘩だった。

小さな冗談が 罵り合いに変わり
怒鳴りあいになり・・・

手が出て・・・・

周りを巻き込んだ小競り合いになり
その真ん中で シュンは刺された。

血が流れ出るのに時間がかかり
倒れるまでに時間がかかり

まわりが気づいた時は
手遅れになっていた。


白い布に包まれた シュン。

呆然とする私の横には
警官がいて あれこれと
シュンのことを聞いてくる。

私は何一つまともに答えられない。

私はシュンの本名さえ知らなかった。



私が大切だと思う人・・・
私が失くしたくないと願うもの・・・
みんな どこかにいってしまうから

「もうどこにも心を寄せたりしない」

そう決めたのに・・
私は何を・・・


私の隠していた想いがシュンに向かい
シュンがゆらゆらと揺れる炎の中に
呑み込まれるのが見えた気がした。



もう私には流す涙も残っていない。

私はただひたすらに
シュンの腕の「かんのん」を
撫でさする。

 


| | Comments (5) | TrackBack (0)

その72 mc vol.26 「 いらない子ども。。」

 第26回  MysteryCircleに参加させて
いただきました。

参加は二度目ですが・・・
ここ ホント なんかちょっと レベル高い気がします・・
(2度目にしてついていけない感じ・・)

今回は参加者も多く 面白い話がたくさんあったので
良かったら読みに行って見てください。

その中でrudoが 気に入ったのをこっそり
ここで紹介いたします。

評する・・わけじゃないですよ そんなえらそうなことはできません。
単に これが好きだという 好みです♪

「I'm The Book」 松永 夏馬 さん・・

 斬新なアイディア。

 楽しい展開。
    
キュートな登場人物(?) BOOKさん。

 終わり方も軽く楽しく・・  
この二人のその後が是非知りたいと思いました。
 
もうひとつ。。
「非常識」 おりえさん・・・
 単純に 素直に おもしろかったです。  
笑った。 幸せ。


では・・ちょっとこのサークルでやっていくのは
無理があるんじゃないか? と思う。

今回の提出分です。


◎「また、大変な騒ぎになりそうね」 で始まり・・

◎「私がいるために、笑いたい時にも笑えないなんて言われるといやだからね」   
で おわる・・


「 いらない子ども。。 」 rudo著

 
ぐったりした 小さなからだ。  
もうすぐ3つになる 私の子ども。

 不自然に捩れた腕。

 「また、大変な騒ぎになりそうだな・・」  
・・・と麻里さんはボンヤリと思う。

 散乱したオモチャの上で  
つっぷして動かない その柔らかな頬に
 
涙のあとが 白い。  
口の周りに 鮮やかな赤。
 
鼻血かな・・
 口を切ったのかな・・

 どっちでもいいか  
どっちでも同じ。
 
血が出ていることには変わりない。

 
今度はどうなるんだろう
 もう 許してもらえないだろうな。
 2度目だから・・
 
腕が折れてるみたいだし・・
 病院に連れて行くだろうな。

 そしたら体中のあざを見つけて   
お医者さんは顔色を変えるだろう。
 
赤や黄色や青や紫のあざ・・
 日常的に暴力を振るわれていると判断するだろう。



 
一度目の大変な騒ぎは  
子どもが6ヶ月くらいだったかな。
 
なんだか はっきりしないな。
 あまり憶えていない。
 
お風呂に入れようとしていて  
子どもがものすごい声で
 泣いたから・・・
 
こわくなってタオルにくるんで  
床に置いたのだったかな。。
 
壮太さんが何かわめきちらして  
子どもの体が真っ赤だったような気がする。
 
またあんな風に  
壮太さんが怒って  
子どもが泣き叫んで・・・

 
そういえば・・この子
 どうして泣かないのかしら?
 さっきはあんなに癇癪をおこしていたのに。
 
眠っちゃったからかな・・

 
いいな 私も眠りたい。  
そうだ薬があった。  
飲まなかった薬。
 
ヤケドさせちゃった時  
お医者さんが私にくれた。

 
あれ?  
ヤケドをしたのは子どもなのに  
どうして薬は私に出たのだったかしら?
 
いろんな種類の薬。  
ちゃんと飲んでるふりして  
飲まなかったんだよね。
 
だって あの薬 飲むと
 ぼんやりしちゃって
 なんだかすごく疲れるし  
体もむくんじゃうんだもの。。
 
飲まなくたって大丈夫だったし  
大丈夫だったのかな・・?
 
やっぱり飲まなきゃいけないものだったのかな・・  
みんなは飲んでると思ってたんだよね。
 
今更そんな事いっても 遅いか・・

 ほら・・あった。  
全部残ってる これ・・
 
私も眠りたい。  
もう眠りたい。
 
いま飲むから   
全部のむから・・
 
起きたくないよ・・・

------------------------------------------------------

 
その電話を受けたのは  
もうそろそろ帰ろうかと帰り支度を  
始めたところだった。
 

「保健婦の工藤さんはいらっしゃいますか?」  
「はい。工藤は私ですが・・」

 「その節はお世話になりました。はやた まりです」

 工藤さんは記憶をさぐる。
 はやた・・
 はやた。
  はやた まり?


 「・・・あっ」

 早田麻里 28歳

 2歳6ヶ月の息子に頭蓋骨亀裂骨折・左上腕骨折を負わせて
 傷害罪で逮捕。
 
判決 実刑2年 執行猶予5年。
 
ただ心神耗弱が激しくそのまま精神科に入院した。





 あれから3年たっている。


 彼女の件には関わったけれど  
もう何もできることはなかった。
 結局、彼女とは話しをすることもなかった。


 なのに・・どうして彼女は私を知っているんだろう?
 私に用事があるとは思えないけど・・


 すぐ近くに来ているというので
 駅前の喫茶店で会うことにした。


 「お帰りのところをわざわざすみません」」
 そう挨拶する彼女に病的なものは
 もう、感じられない。

 何から話せばいいのか悩む。  
事件には触れられたくないかもしれない  
でもそれ以外に話すこともない気もする。
 
「いいえ。いろいろと大変でしたね」
 「もう大丈夫なの?」
 
「はい。半年くらい前に退院したんです」  
「まだ通院してますけど・・」

 
1分・・ 3分・・ 5分・・  
10分

 気詰まりな沈黙。

 「今日はお礼を言いに伺ったんです」

 「・・お礼?」


 「はい。あの日 私のために泣いてくれてたのは工藤さんですよね」

 「・・えっ・・?」


 「病室で目が覚めた時 工藤さん来てくれてましたよね」
 「そばにいて 泣いてくれてましたよね」
 「かわいそうに・・って・・」

 
かわいそうに・・?  
会いにはいったけど  
そんな事言ったんだっけ?
 
かわいそう  
かわいそう

 かわい・・そう。
  ああ 思い出した。

 顔を見て驚いたんだった。
 見覚えのある母親だったから。



 一度目は麻里さんが
 生後6ヶ月の赤ん坊に
 ヤケドを負わせた時だ。

 あの時にもっと もっと強く  
思った事を主張すれば
 こんなにひどくならなかったんじゃないかって・・  
後悔したんだった。

 
私は保健婦になったばかりで  
自分の感覚に自信も・・  
裏付ける経験もないひよっこだった。
 
不注意でお湯の温度に気がつかなかったって話しだったけど  
母親の問題かもしれないと病院からの依頼で先輩と一緒に行ったのだ。
 
ご主人の話しや他に傷もない事から  
軽い育児ノイローゼだろうから  
一度 精神科医に見てもらって  
カウンセリングをすれば問題ない。  
先輩はそう言った。
 
私は処置室の前に座ってうなだれた彼女を見ながら  
いやな感じがした。  
一時的にも子どもを乳児院に離した方が  
いいんじゃないかと思ったのだ。
 
先輩にも言ってはみたが
 ただ嫌な感じがするだけでは説得力に欠けた。
 乳児院はいつも満杯なのだ。  
本当に重症でなければ推薦できないと言われた。
 
確かに診断は軽い育児ノイローゼで
 少し鬱になっているが精神安定剤と抗鬱剤で
 大丈夫だろうとの事だった。

 
だけど それではだめだったのだ。
 
二度目の事件は起きた。  
薬を大量に飲んだ彼女が目覚めた時
 とても話しができる状態じゃなかった。

 あれ以後2年近くもどれだけ苦しんだんだろう・・  
この時の彼女はすっかり壊れていた。

-----------------------------------------------------------------
 
「お礼だなんて・・私は何もできなかったのに・・」


 麻里さんはちょっと困った顔をして
 言葉に迷いながら話しだす。


 病院の時も
 警察が話を聞きに来た時も
 裁判の時も
 
良く憶えていないんです。

 
記憶がとんでいたり  
思い違いだったり
 
みんな深刻な 怖い顔してた気がします。
 
怖い顔をして・・  
知らない言葉を投げつけられてた気がします。
 
どうでもよかったんです。  
死んだほうがいいと思ってました。  
刑務所でも精神病院でも  
どこに行く事になってもどうでもいいって。

Mari

 病院に入ってからも
 死ぬことばかり考えてました。
 
そんな事ばかり思っているから  
ちっともよくならなくて・・
 
カウンセラーの人がある時言ったんです。
 何かしたい事はないの? って・・
 
会いたい人とか  
やりたいこととか・・
 
死にたい死にたいっていいながら  
死ねないのは本当は死にたくないからだ。
 
何か目標を決めて  
そしたらきっと良くなるから
 
ここを出て それでもまだ死にたかったら  
今度こそ本当に死ねばいいって・・  
ここにいる限り  
私は絶対にあなたを死なせないから  
死にたい・・死にたいと言いながら  
ここで一生を終えるのよ。


 
そう言われたんです。

 やりたい事もない 会いたい人もいない  
私には何もない・・

 絶望的になった時 思い出したんです。

 
みんなが私を怒っている中で  
私のために泣いてくれていた人がいた。  
かわいそうに・・と泣いてくれた人。
 
私はその記憶にすがりつきました。  
今はその人のために生きよう。

 
そしていつかその人に会いに行こう。
会ってありがとうと言おう・・そう思ったんです。



でも誰だったのか全然思い出せなくて・・

 時間がかかってしまいましたけど
 やっと会いにこれました。
 
今こうしているのは工藤さんのおかげなんです・・

 「ありがとうございました」
 
麻里さんは深く深く 頭を下げた。
----------------------------------------------------------------



 二人で駅に向かいながら
 麻里さんはぽつぽつと
 話しをしてれた。

 あの事件の後すぐ離婚が決まった事。
 近所の本屋で働いている事。  
もう「死にたい」とは思わなくなった事。
 
今は横浜に住んでいて  
でも近々叔母さんの所へ行くと言う。
 
「どちらに行かれるんですか?」
 
「沖縄です」
 「叔母さんが一人で民宿をやっているんです  
手伝いをしながらのんびり暮らそうと思って」
 
「そうなの・・」
 
聞いては悪いかと思いながら  
もう会う事もないだろうと思うと気になった。
 
「お子さんは・・・ご主人が?」
 
「はい。親権ももちろん彼の方です」
 
くったくなくさらさらと麻里さんは答える。

 「沖縄に行く事は知っているの?」

 「言ってないです。たぶんもう会うこともないと思うし
  離婚する時に約束したんです。 会わないって」

 「子どもにはお母さんは死んだって事にするからって」

 「そんな・・それで納得したんですか?」
 
「はい」

 
「死んだ事にするなんて・・本当にいいの?」

 「はい」

  ・・・
 「健太にはひどい事をしてしまいました」

 「あっ健太って言うんです。子ども・・  
 私、子どもの名前もわからくなってたんです」

 
「会いたいなぁって思うこともあります。  
 会って謝りたいなぁって・・」

 「でも・・私がいるために、笑いたい時にも笑えない
  なんて事になったらいやじゃないですか」
 
「それなら死んだ事にしちゃったほうがいいかなって」


 そう言って麻里さんは笑った・・
 素直で柔らかな笑顔だ。


 
でも・・工藤さんにはどうしても  
泣いているように見えて仕方なかった。




| | Comments (8) | TrackBack (0)

その71 MC vol.25 「 トミさんと私。。 」

今回 第25回  MysteryCircleに参加させていただきました。


◎「どうして本当のことを言ってるときに限って、誰も信じてくれないのかしら・・・。」
から始まり。。
◎「その顔は月影で見るには恐ろしすぎる。。。」
で終わる。。

『トミさんと私。。』

著者:rudo  


「どうして本当のことを言っているときに限ってみんな信じないのかしら」
「あんまりありえないことを言うからじゃねえか?」
「だって、どこかの駅に爆弾をしかけた とか今日の何時に大地震が来るとか言ってる訳じゃないのよ」
「そりゃぁ そっちのほうがありえんじゃねえの? 今の世の中な」

 答えてくれるのはトミさん。

「そろそろ飯の調達に行ってくるかな」
 トミさんはそう言って紙袋をいくつか持って立ち上がった。
「私、まってようかな・・・・・・」
「好きにするさ」 
 トミさんは振り向きもせずに公園を出て行った。

 ここは高速道路の下に申し訳程度に作られた公園。 
滑り台が一つと誰も入りそうもないトイレと水のみ場。 
ペンキのはげたベンチがひとつ。
 そこの橋桁によりかかるように建てたダンボールハウスにトミさんは住んでいる。

 ちょうど駅と私の住むアパートの中間にあって、会社帰りに雨の中滑って転んだ私に
ビニールの傘とタオルを貸してくれた。
 親切にしてもらって悪いけれど相手は浮浪者だ。 かかわりたくなかった。
 だからビニールの傘とタオルは捨ててしまおうと思っていた。
 次に雨の降るまでは・・・・・。

 その日は朝から雨で、夜の7時ころ駅に着いたとき、トミさんを見た。
 トミさんはずぶ濡れのまま紙袋を持って歩いていた。

「1本しか持っていない傘を貸してくれたのか・・・・・・」

 私は急いで家に帰り、借りた傘とタオル、思いついてコンビニで缶ビールを買って
ダンボールハウスを訪ねたのだった。
 トミさんは別に驚くでもなく 「ああ」 と言って傘を受け取り、
ハウスの中にタオルを敷き缶ビールを一つとって突き出した。 飲んでいけということらしい。

 私はなぜかごく自然に缶を受けとりハウスに入って一緒にビールを飲んだ。
 ハウスの中は思ったより広く、臭くなかった。

 それからはときどき帰り道にトミさんを訪ねるようになった。
 たいていは私が一方的にしゃべっていた。 会社の愚痴とか彼との事とか。
 トミさんの答えは単純明快でなんだかとても心地よかった。
 でも絶対ハウスの中だった。誰かに見られたら恥ずかしい・・・・・・。
 トミさんには悪いけどホームレスと知り合いだと思われるのはいやだった。

 カサカサと音がしてトミさんが戻ってきた。
 紙袋から今日の戦利品を取り出す。
 期限の切れたコンビニのお弁当3個、和菓子のパック1個、今日の朝刊と週刊誌が3冊。 
チョコビーの食べかけが1箱。
 「その菓子な、大丈夫だぞ。 今そこのベンチでな、ガキが開けてたんだけどな俺帰ってくんの見えたら母ちゃんがあわてて手ひっぱってちゃったんだ。 そのガキ、菓子落っことしても拾う間もねぇのな」

「トミさんは何もしないのにね」
「・・・・・・弁当・・・・・・食ってくか?」 トミさんが遠慮がちに聞く。
 トミさんから食べ物をすすめられたのは初めてだ。
 私が言われても困るだろうと気を使っていたのかもしれない。
 確かに、あまり気は進まないけど・・・・・・でも・・・・・・。
 ちょっと迷って 「うん もらおうかな」 と答えた。
 トミさんは自分で誘ったくせにひどく驚いて、それでも嬉しそうにお弁当を一つ差し出した。
 なるべく新しい方をと思ってくれたんだろう。
 賞味期限の何時かまで読み上げてくれた。
「期限切れ、いまさっきなのにもうゴミなんだね」
「うるさくてな。 オレみたいのが居るから、前は店の裏に出てたけど今は出さねのな」
「じゃあ、これどうしたの?」
「店員と顔なじみなんだ。 でもそいつが辞めたらもうこんなの食えないかもな」

「トミさん、どうしてこんな地味なところに住む事にしたの?」
「前は大きな駅の地下道に居たこともあるけどな、誰が先に住んでただの
この店はオレの縄張りだだのめんどくさくてな。 一人のほうが楽だもんな」

 しばらく二人ともだまってお弁当を食べた。
 のどが渇いて 「お茶でも買ってこようか」 というとトミさんが後ろのダンボールから缶ビールを取り出した。
 受け取ると冷たい。
「おめさんが持ってきたビールの残りだから大丈夫だよ」
「冷蔵庫なんてあったっけ?」
 トミさんは缶を出した箱をみせてくれた。
 中にはもうひとつ発泡スチロールの箱が入っていてそこには氷がいっぱい詰まっていた。
「スーパーに行くとな。 氷おいてあんのな。 ご自由にどうぞってな」
「あー冷凍食品とか用のね」
「毎日もらいに行くんだ。 ちょっと嫌な顔されっけどな。 混んでる時間に行けば目だたねんだ」
 いろいろ工夫してそれなりに快適に暮らしているんだなぁ・・・・・・。
 そんな事を思いながらチョコビーをつまみにビールを飲んでいると外でなにか大きな音がした。 
 なんだろうと顔を見合わせているとサイレンの音も聞こえてきた。 「事故だ」 
トミさんがハウスの外に飛び出した。 私もあとにつづく。

 上を通っている高速の先の方、赤色灯で空が赤く染まっている。
「大きな事故かな」
「さあな」
「死んだかな」
「どうだろな」
「人が死ぬのはイヤだね」
「ああ やだな」
 赤色灯の赤ってどうしてこんなに人を不安にさせるんだろう・・・・・・。

「オレ。 ここいなくなっかもしんねーから」
「えっ? どうして? どうしたの? 」
「今、決心した。 オレ自首するわ」
 何をいいだしたのかすぐに理解できなかった。
「いつ死ぬかわかんねもんな。 きれいな体で死にてえよな」
 なあに? トミさんは何を言っているんだろう?
「オレ。 人殺しなんだ」

 ヒ・ト・コ・ロ・シ・・・・・・?

 なんだか暗号みたくてうまく頭に入ってこない。
 トミさんは赤く染まった空を見ながら話し出した。

 オレの田舎。 秋田の山奥でな。
 つまんねぇとこさ。 なんにもなくて、冬は寒くてなぁ。
 賭け事にはまって山ほど借金作ったんだ。
 ぜんぜん返せねえのな。 あたりまえだよな。 バクチの借金なんて増える一方だもんな。

 それでも止めらんなくてもうどこも金かしてくんねえし、タバコ屋に忍び込んだんだ。 
ばあさんが一人で住んでてな。
 そんなばあさん一人くらい包丁もって脅せばどうでもなると思ったんだ。
 ところが気丈なばあさんでな。 暴れるわ、大声出すわ包丁なんて見てねのな。
 いくら田舎で人家が少ないったって気づかれちゃうんじゃないかとオレ焦ってな。
 目茶苦茶に包丁振り回したんだ。
 静かんなったなと思ったら・・・・・・そこら中血だらけだ。
 血の海んなってたな。
 こわくなって逃げて逃げて、ドブネズミみたいに隠れながら逃げてな・・・・・・
 でも、もう疲れたもんなあ。
 しばらく前から考えてたんだけんど、なかなか決心つかねくてな。

「今日は弁当いっしょに食ってくれてありがとうな」
「そ・・・・・・んなこと」 声が震えた。
「うれしかったな。なんかなぁ」

「いつ・・・・・・行くの?」 警察へとは言えなかった。
「そうだな」

「私、明日もくるよ。 いっしょに夕飯食べようよ。 だから私の分もお弁当調達してきといてよ。 ねっ」

「ああ」
「絶対だよ」
「ああ」
「本当だからねっ」
「ああ」

 ・・・・・・。

 翌日 会社帰りにビールを買うのももどかしく大急ぎで公園に向かった。
 ダンボールハウスはただのダンボールになっていた。
 トミさんはもういない。

「今朝、通ったときはまだ居たのに・・・・・・」

 たたまれたダンボールに腰を下ろし缶ビールをあけた。

 夜更けに血の海に立ちすくむトミさんを想像してみる・・・・・・。
 目は血走り、肩で息をし、悪鬼のようになった トミさん。

 トミさんのもうひとつの顔は月影で見るには恐ろしすぎる・・だけど。
 その顔を知ってしまった今も私の脳裏に浮かぶのはいつものトミさんだ。
 哀しげな目をした。 いつものトミさんだ。

 いつかきれいな体になったら そしたら・・・・・・。
 帰ってくればいいなと思う。

 帰ってきてほしいと思う。

 そうして私は飲み終えたビールの缶を、思い切り蹴った。

| | Comments (2)